WEB小説 拡張された世界 〜第一章15〜
「じゃあ、始めるか!開始のカウントを頼む。」
「はい、20秒前・19・18・17・16・・・ 」
アリスのカウントダウンが始まり、俺も操作レバーに少し力がこもる・・・
「10秒前・・・9・8・7・6・5・4・3・2・1・スタートです!」
アリスの掛け声と共に、湖畔に仕掛けておいた水蒸気煙幕を起動させる。同時に風船型ダミー機体を噴出させ目くらましを狙う・・・当然、AIが相手なので、効果はほとんど無いかもしれないが、やらないよりマシである。
シュ ゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!
辺り一帯、視界を一気に奪う煙に覆われるが、エムズのモニターは赤外線モードに切り替えてある。
ダッダッダッダッダッダッダダダダッ!!
17式からダミー機体に向けてバルカンが打ち込まれている模様・・・風船が破裂する音が鳴り響いている。
17式の注意がダミー機体に向いている間、ブライアさんを甲板に乗せたエムズは、水面下に隠れたまま、ぐるっと回りこむように列車へと接近する・・・しかし、17式の探索能力は簡単に接触を許してくれるようなそんな柔なものでは無い。
「マスター、対象からロックオンされました!」
「迎撃ーーッ!!」
17式の側面部のミサイルがこちらに向けて発射される・・・地対空迎撃ミサイルだ。
ドゴォォォオオオオォォォォォーーーンッ!!
轟音と共に大爆発が起きる。ミサイルがこちらに届く前に散弾銃で迎撃したのだ。
「二射目きます!」
「回避ーーッ!!」
今度はエムズのブースターをフル稼働させて水面下をスライド移動させる。
ドォァァシャャャャーーーーー ンッ!!
間一髪・・・回避行動が成功し、ミサイルは水中で爆発を起こし、水面は大きく浮き上がる。
「連射、きます!」
「ちょっ、火力高過ぎだろッ!!」
素人パイロットの俺が操縦するエムズに向けて、容赦無くミサイルが襲いかかる。
右に左に動き回り、散弾銃とアームバルカンで迎撃しながら直撃を避けるが、全てを防ぎきれるものではない。
ドゴォォォォーーーンッ!!
「被弾!損傷率27%」
「大丈夫!かすっただけだ!」
ミサイルの雨をなんとか搔い潜り体制を整えるが、コクピット内は赤く点滅し、モニタ−には『LOCK ON』の警告文字が消える事無く表示され、そのプレッシャーは凄まじいものだった。今日はただ、修理の仕事に来ただけだったのに、生きるか死ぬかの戦いを今している。
「マスター!まもなく、対象がポイントに到達します。」
「よし、いくぞッ!!アリス!!ジャンプだ!!」
機体のブースター出力を全快にする・・・エムズは垂直方向に大きく浮き上がる。ミサイルの爆風を避けて、大きく飛び上がったのだが、当然エムズは飛行型の機体ではなく、空中にいるといい標的にされるだけなのだが・・・
「マスター、リバイヤキャノンが来ます!!」
「ひぃぃぃぃーーーーーッッッ!!!」
第17式機動装甲列車の主砲であり、地上兵器ではAAランクの高出力を誇るリバイヤキャノン・・・その主砲がこちらに向けられている。
・・・ そして ・・・
ブォォォォァァァァーーーーーッ!!
凄まじい衝撃と共に発射されるキャノン・・・俺は目一杯レバーを倒してスライド移動で逃げようとするが、避けきれない。
ドゴォォォオオオオオーーーーッッ!!
エムズの右腕が吹き飛ばされると共に、衝撃波と爆風で機体ごと回転しながら墜落する・・・そして、湖の水面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。
「機体損傷率74%・・・バックパックが暴発の恐れがあるので、切り離ししました。」
「ボコボコだなぁ・・・アリス!」
「はい。」
「でも、生きてるからな!そこを評価してくれ!」
「はい、流石私のマスターです!素人にしてはなかなかの腕前だったのではないでしょうか!」
「アリスちゃん、そういうとこ、ホント厳しいよね!?」
「はい!」
まあ、17式に一方的にボコられただけなので、そういう評価になるのは仕方ないが、アリスの上から目線に少しムカついた。
でも、17式の注意を存分に引き付ける事が狙いなのだから・・・
「修理屋!生きてるか!?」
「はい、なんとか生きてます!」
・・・ブライアさんから通信が入る。
「こっちは、車両のドアをこじ開けて、今から乗り込む所だ!視界カメラを起動する!」
「はい、了解です!」
・・・最初の煙幕を起動した際、エムズを遥か前方の線路付近まで大回りさせ、そこでブライアさんを降ろした。ブライアさんはそのままレールの下に身を潜め、到着するのを待った。
しかし、立ち上がって車両に乗り込もうとすると、17式に捕捉されてしまうので、到着する瞬間に合わせて、リバイヤキャノンを撃たせるようにしなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・
「リバイヤキャノンを射出する瞬間の衝撃で、感知レーダーが一瞬機能停止します・・・ここが車両に乗り込む瞬間です!」
「わかった!でも主砲使わせるのか!?」
「はい!何とかしてでも撃たせますので、タイミング宜しくお願いします!」
・・・・・・・・・・・・
全ては作戦なのだ。ボコられたのも作戦通りなのだ・・・と言う事にして、車両内に潜入したブライアさんの目線から見える景色を眺める事にする。
「アリス、ブライアさんの視界カメラからの映像に切り替えてくれ!」
「はい、マスター!」
・・・ そこには、暴走するニ両の列車の前方付随車両内の映像が映し出される・・・