WEB小説 拡張された世界 〜第一章19〜
「俺達の目には、黒いカーテンが降ろされたように見えたんだ。」
オーグリアリティ・・・機械や人間の目に見える景色を拡張させて覆う世界。それによって、本来目に見えるはずだった世界を黒で覆ってしまったのだ。
「それからカーテンの向こう側で何が行われたかは全くわからない。俺達オーグアーミーは封鎖の命令を遂行するだけだった。ただ、カーテンが開けられた時、その向こう側には、人も建物も何もかも無くなっていたんだ。」
「・・・そうなんですか。」
「俺はゲート封鎖の任についていた。その時一人のオーグセキュリティ捜査官がゲートの向こう側に行かせてくれと泣き付いて来たんだ。」
「それって・・・?」
「若い女性捜査官で、今回の暴動鎮圧の任についていた彼女は、自分達に任せてほしい、まだ待ってくれと嘆願しながら、他の隊員に取り押さえながらも訴えてきた。」
・・・その女性捜査官というのが・・・
「俺はただ事の成り行きを見守る事しか出来なかった。全てが終わって、放り出されてゲートの前で放心状態のまま座り込む彼女に俺は声を掛けた。彼女は、この事態を引き起こしたのは、自分のせいだってずっと泣いていた・・・彼女の涙が忘れられなくて、俺はこうして今、その時の彼女の下で働いているって訳!」
22エリア暴動事件・・・ 当時俺は、空から落ちてきて、病院でリハビリをしている時だった。
ニュースで連日報道されていたが、突然シャットアウトされ、報道規制が敷かれた。
その一連の事件の担当捜査官代表が、当時キャリアを歩む予定であった笠原晶子だった事を俺は初めて知ることになる。
・・・・・・・・・・・・
「なぁ、晶子・・・ここは俺達に任せてくれないか!?」
『何を言ってるの!?』
「今はブライアさんや俺・・・ここにアリスだっている!」
『・・・・・・』
「手を伸ばせば届くのに、それを見過ごすなんて、俺は嫌やだ!」
『!!!???』
「晶子・・・名義上、今の俺の立場は容疑者だ!容疑者が暴れてさらに罪を重ねていくその勇姿を見ててくれ!エムズ一号機はこれより、単独行動に出る!」
『 悟 ! ! 』
・・・俺は通信を遮断した・・・もう後戻りは出来ない・・・するつもりもない・・・
「アリス・・・これで思い残すこともなく、最終決戦に挑める!」
「はい、マスター!」
「とはいえ・・・最終決戦っつっても、今日の仕事の最後の仕上げって事だからな!ミサイルや砲弾は飛んで来るけど、ちょちょ〜っと行って、ちょちょ〜っと解体してくるだけだからな!」
「朝飯前です、マスター!」
「ははっ!アリス・・・お前がいると負ける気がしないよ!」
「当たり前です!なんて言ったって、私のコアを作ったのは、マスターなんですから!」
膝の上に座りながら、チラチラ後ろを気にしながら会話にこたえてくれるアリスの姿は、なんとも幼気な感じがして愛らしく思う。
以前、俺が後ろにいる場合に会話する際、アリスは首を180度回転させて話しかけてきた事があったが、あまりにシュールな姿だったので、もうやめろと命令していた事を思い出す。
・・・・・・・・・・
「対象まで距離2600m・・・ロックオンされました。」
「よしっ!加速する!」
「誘導弾、発射されました。」
「ハッキング開始!」
「はい、マスター!」
・・・第17式機動装甲列車、通称17式・・・高火力の列車型機動兵器・・・なんと言っても特徴は主砲のリバイヤキァノンであったが、その他にも16連ミサイルポッドやバルカン砲など、武器構成のスペックが高い。
そして、ミサイルにも種類があり、プログラム誘導機能の中距離ミサイル(誘導弾)が、狙い目であると分析していた。
つまりは、誘導弾が17式を離れた時点で、ハッキングして目標を変更させる事が可能なのだ。
「ハッキング完了しました!目標は17式、リバイヤキャノン!」
発射されたミサイルが180度反転して、今度は17式を目標に向かう・・・相手の武器を使って相手に攻撃する・・・なんとも効率的な戦い方だ。
ダァァァァァァーーーーーンッッ!!!
しかし、ハッキングした誘導弾が17式に着弾する前に、バルカン砲によって迎撃されてしまう。やはり17式は防衛能力に特化している。
だが、迎撃されるのは百も承知だった。
「よそ見すんなよ!17式!!」
一気に加速させ17式に近付いたエムズの右腕から発射される弾道が、リバイヤキャノンの砲台の先端を掠めた。
バァァーーーーーンッッ!!
17式本体部分でなく、リバイヤキャノン砲台の先を狙ったショットガンが命令した。
「命中しました!これで、リバイヤキャノンは使用不能になりました!」
「よしっ!一旦、距離を取る。気付かれてないか!?」
「え、えっと・・・今、車輪と地面が擦れる跡で補足されました!」
「回避ーーー!!」
ダァァァァァァーーーーーンッッ!!
ギリギリの所で回避して距離を引き離す・・・まず、第一の目標であるリバイヤキャノンの機能停止は達成した。
ここまで、17式に接近できたのはもちろん理由ある。
「もう、意味がないか・・・よしっ、アリス・・・ステルスコーティングを解除!」
「はい、マスター!」
・・・ステルスコーティング・・・拡張世界(オーグリアリティ)を使って物体を透明化する機能・・・これは、先程まで使っていた17式の専売特許ではない。
最後のアタックに備え、急造ではあったがアリスと俺でエムズにステルスコーティング機能を備え付けたのだ。
「技術者を、舐めるなよ!!」
相手が機械である以上、俺は元研究所職員、電脳工学の技術者としての戦い方が出来る。
「リバイヤキャノンは使用不可・・・ミサイルはハッキングされるので撃てない・・・さぁ・・・どうしますか!?中富博士・・・!?」
俺は、17式のコアに移植された中富博士の電脳に語る。
ブライアさんの話によると、中富博士の電脳の機能は停止されているそうだったが、中富博士が歩んだ記憶と希望が、17式のコアにフィードバックされているのではないかという事だった。だからこうして、暴走事件を引き起こしている。
「ここは、もうサシで勝負するしかないですよね!!」
「マスター、誰に向けて話してるんですか?」
「17式・・・中富博士にだよ!俺の願望をね!」
「でも、マスターのお望み通りになりそうですよ。ミサイルのロックはキャンセルされています。ですが、バックパックが破壊されていますので、この機体もそろそろ限界が近付いています。」
「そうか・・・じゃあ、次が最後ってわけだな。」
「はい、そう言う事です。」
「それじゃあ。行くか!!ラストアタックに!!」
「はいっ!!マスター!!」
俺は、エムズを加速させる・・・