WEB小説 拡張された世界 〜第一章03〜
「ところでさ、アリス。」
「はい、何でしょうかマスター!!」
「今日の仕事の報酬とVRサーバー報酬とで今期はなんとかなりそうかな?」
「はい、もう現時点でクラスB++分の 税務PAYは確保していますのでご安心を! 」
・・・この世界は全て電子マネー・・・いわゆる"マネーポイント制度"で統一されている。同時に、老若男女問わずこの世界の一人一人には納税の義務が課せられており、それが『税務PAY』 と呼ばれるシステムで、一年に二度電子マネーをリアースに納める形となっている。
正確に言うと "納めなくてもよい" のだが、電子マネー(CASH)を納める額によって、一人一人を所得階級分けし、その階級によってこの世界で受けられる福利厚生サービス内容が変わってくるというシステムだ。 『税務PAY』をより多く納めたSSクラスの人間は、この世界のほとんどの公共機関を顔パスで入る事が出来、また多くの条件下で優遇される・・・逆に、 全く納めない人間は ”KKクラス” といい、この世界の公共機関の利用不可、また居住権も剥奪され専門労働施設送りにされるケースもある。
俺、月ヶ瀬悟率いる『月ヶ瀬修理店』 も、住居兼オフィスの 立地条件や待遇を考えると半期納税 クラスB++確保を最低ノルマとして勤しんでいるが・・・アリス曰く、 今期のノルマは越えたとの事で少し安心した。
「すごいな!どこで利益を出したんだ!?」
「はい、マスター!現収入比率ですが、マスターの修理業からの収入が全体の37%、レンタルVRサーバーからの収入が55%、そして残り8%が前年からの繰り越し額です!」
「VRサーバーって、そっ、そんなに売上叩き出してんの!?」
月ヶ瀬修理店の駐車場地下には、一台の大型スーパーコンピュータが設置されている。
その名は『スーパーコンピュータ=アリス』だ。
まんまの名前の通り、目の前の支援アンドロイド『アリス』と地下のスパコン『アリス』とはお互いをリンク共有しており、スパコンから収集されたデータを即時にアリスの脳内AIに送り込む事が出来る。
見た目は少女ロボットのアリスだが、 スパコンと情報共有させる事で、『自分で喋って歩く事も出来る百科事典兼コンピュータ』を実現させたスーパーアンドロイドだ。
「・・・ところでマスター!」
「なんだ?」
「仕事依頼のメールが届いています。」
「どこから?」
「受信先はオーグセキュリティE-03・・・依頼主は笠部晶子様からです。」
「・・・・・晶子からか・・・?」
「はい、晶子さんからです、マスター!!」
『オーグセキュリティ』というのは、いわゆるこの世界の警察機構の事。リアースにより統治・管理されているこの世界において、警察機関もコンピュータ化されるはずであったが、リアースの判断は人間による人間の犯罪への対処だった。
コンピュータによる全面治安維持の方法では、人間は”支配されて生きている”という概念がますます増えるのではないか・・・そういった支配観念を軽減させる為、リアースはこの世界に対してかなり寛容なシステムを敷いている。
人間の居住区に点在する人による警察機関・・・それがオーグセキュリティである。その中のひとつ、オーグセキュリティE-03部の課長を務めるのが、今回の依頼主『笠部晶子』である。
ちなみに彼女、笠部晶子と俺、 月ヶ瀬悟は大学時代の同級生である。
俺は物心ついた頃から永森博士の研究ラボで生きてきたが、博士は俺に教育機関で色々な事を学ぶようにと進学・在籍を手配してくれた。
電脳工学を学ぶために2年間程工科大学に通っていた事がある。その時に学友が笠部晶子だった。彼女とは・・・色々あったが、あまり思い出したくない・・・ふたを閉めて釘を打ち込みたい思い出といった所・・・
「笠部様の依頼内容は、対犯罪者用戦闘ロボットの修理です!」
「修理と言う名の改修だろ!!」
「そんな記述はどこにも・・・あっ、でも笠部様からの備考メッセージがあります。」
アリスがモニターにそのメッセージを映してくれる・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・
(๑˃̵ᴗ˂̵)و 悟 ! 逃 げ な い で ね ♡
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すごくシンプルだ・・・それでいて、すごく恐怖を感じるメッセージだった。3◯歳のB◯A・・・いやっ、お姉さんがどんな顔して語尾のハートマークを打ち込んでいたかと思うと、俺は吐きそうになる。
大学時代から何かと俺に絡んでくるのが笠部晶子と言う人間だったが、この歳になった今、お互い立場が変わった今でも昔と変わらなかった。
「アリス!!明日の仕事はお前の力も必要そうだから来るように!」
「ホントですか!!マスター!!やたーッ!!」
嬉しそうに飛び上がるアリス・・・まるで人間のようなリアクションも最近だと普通に出来るようになってきている。
「アリス、くれぐれも言っておくけど、家の外で俺以外の人間には、お前のハイスペックをあまり見せびらかしたらダメだからな!!お前が賢過ぎる事がバレれば色んな連中から目を付けられるからな!!」
「はい、心得ておりますマスター!! 」
俺は、永森博士に託された研究メモリデータをアリスの脳内AIに取り付けた。そして、アリスを使ってその託された夢を完遂しなければならない。だからこそ、アリスの事は他人にはまだ詳しくは話さないようにしている。