WEB小説 拡張された世界 〜第一章08〜
「大体、列車の暴走だって言うけど、鉄道屋で何とか対処出来ないのかな!?」
ブリーフィングルームでは、今回の事件についての概要説明が始まっていた。
ブライアさんが言うように、本来レールライン(鉄道機関)の管轄事件であったが、事件発生直後にレールラインから応援要請が届いたそうで、警察機関としては、少し困惑するものがあった。
「これを見て・・・!!」
メインモニタに現場映像・・・暴走している列車の映像が映し出される・・・
・・・一両の列車が時速60〜70kmで走行している映像だった・・・
「???」
「どうかしら??」
「なんで、暴走してるのが付随車両なんでしょうね・・・??? 一体、どこに動力が・・・」
この世界のレールライン上で運行される列車のほとんどは、動力車両と付随車両からなる動力分散連結方式で運行されていたが、今、画面に映し出されている暴走車両は、動力を持たない付随車両だった。
「サーモグラフ化映像に切り替えて!」
晶子の指示により、画面が赤外線サーモグラフィー映像に切り替わる。
「なっ!!!???」
ブリーフィングルームにどよめきが起こる。
・・・画面に映し出されたのは、暴走している付随車両の後ろに、もう一台の車両が連結して押すように走行している映像だった。
「暴走の原因はこれか!!??」
「でも、なんで標準カメラには映らないんだ・・・??」
捜査官達がざわつく・・・しかし、それを遮るように俺はしゃしゃり出た。
「 ス テ ル ス コ ー テ ィ ン グ で す よ ! ! 」
ステルスコーティングとは、目に見えないように物を透明化する技術の事である。正確に言うと、人や機械が対象物を判別出来ないようにハッキングする技術の事である。
この世界は拡張世界(オーグリアリティ)に覆われており、人間の目にはその拡張世界の映像がデフォルトで見えるようになっている。その拡張世界を作り出すシステムに干渉する事で、拡張世界から対象物を消す(見えなくさせる)技術・・・それが、ステルスコーティングであったが、この技術を使用出来る人間は、基本的にはごくわずかな機関の者だけとなっていた。
「悟!?何であなたがここにいるの??部外者は立ち入り禁止!!どうして入って来られたのよ!?」
かなり怒っている様子の晶子だったが、このブリーフィングルームに入れるように疑似セキュリティパスをさっき作らせてもらいました・・・
「ステルスコーティング出来て、尚且つ・・・サーモグラフ化映像をよく見てください!!」
一同の視線が画面に集まった所で、俺は話はじめる・・・
「前の車両、後ろの車両ともに映像には、人の影が全く映っていません。つまりは無人機です。しかも後ろの車両はこの画像だけでは断言出来ませんが、おそらく影の形状から見ると”レール式戦闘装甲列車”と思われます。」
「レール式戦闘装甲列車!!??」
先程よりも強いどよめきが起きる。
「”ステルスコーティングされたレール式戦闘装甲列車”・・・て、軍隊要請レベルじゃない!!だから、問答無用で私達に振って来た訳ね。」
事件の規模からして、レールライン(鉄道機関)で対処出来るレベルではなかったのだ。
「そこで、俺、月ヶ瀬悟の出番だよ!俺は、ここにいる皆さんと違って、頭にチップが入っていない。だから、拡張世界(オーグリアリティ)に惑わされる事なく、肉眼でその暴走列車を見れば、どんな装備でどんなスペックなのかを解析する事が出来る!」
「そう言えば、悟はキャンセラーだったわね・・・」
この世界にわずかに存在する脳内にナノチップを埋め込んでいない人間・・・ナノチップを埋め込んでいないので拡張世界(オーグリアリティ)が目に映ることもない人間・・・そういった部類の人間は、キャンセラーと呼ばれていた。
「そうだよ!曇りなき眼で真実を見る事が出来る目・・・俺があの暴走列車の正体をを暴いてやる!!」
「わかったわ・・・悟・・・」
「俺を現場に連れて行ってくれ!!」
「 部 外 者 は す っ こ ん で ろ ッ ッ ! ! 」
俺とアリスはドックへと放り出された・・・民間人に任せられる訳がない!しゃしゃり出るのもいい加減にしなさいと、鬼の形相の晶子に一喝されてしまった。
「マスター、ダメでしたね・・・」
「あぁ・・・でも、俺がここであきらめると思う・・・?」
「いいえ。マスターはしぶといのが取り柄の人です!」
「よくわかってんな、アリスは!?」
「はい、マスターのアリスですから!!それに・・・」
「・・・さっきの映像・・・ちょっと、ヤバそうな感じだよな!?」
「はい、ここ(オーグセキュリティ)の装備レベルで対処出来るかどうかです。」
・・・晶子達、オーグセキュリティE-03部の捜査官達は、事件現場に向けての準備を初めている。先発隊の捜査官達は、既に事件現場(暴走列車)へ出動したそうだ。
俺とアリスは、次の行動について考え始めた・・・