WEB小説 拡張された世界 〜第一章02〜
今から4年前の事・・・
地球の衛星軌道上に浮かぶ、国際宇宙研究ラボ・・・
このような研究機関がいくつも衛星軌道には存在していたが、その中のひとつ技術工学の顕位である永森雄一博士が館長を務める「NAGAMORI機関」の研究職員として俺は働いていた。
地球で生まれた俺は幼少の頃、恩師の永森雄一博士に連れられて、衛星軌道に登った。それからは、宇宙と地球を行き来しながら育ち、工学や電脳学等、技術者として学び、育ての親でもある永森博士の研究機関で博士をサポートしていた。
宇宙空間においては、朝・昼・晩という規則性を持たせ、地球上と同等の環境を作り、そこで生活するのが一般的であったが、研究施設によっては、朝・昼・晩の生活サイクル概念を捨てて、研究に没頭するヘビーな研究所も存在した。NAGAMORI機関もその類いのひとつで、私もとりあえず限界まで働き、寝て起きて、また研究して・・・そんな生活を送っていた。
そんなある日・・・
ドォォォォーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!
ものすごい轟音だった。場所は遠く方でと思われるが、もの凄い爆発音で私は飛び起きた。
研究ラボの無重力回廊でプカプカ浮きながら寝ていた俺だったが、飛び起きた直後、研究所職員達は慌ただしく現状把握に努める。永森博士の研究室に戻る途中、どうやら大きな爆発音と共に火災が発生している情報もアナウンスされていた。
「博士ーーーー!!!」
「戻ったか、悟!!」
「一体何がっ!!??」
「話は後だ!お前に頼みがある。」
そう言う永森博士の表情は、これまで見てきたものとは全く違う真剣で切迫した表情だった。
「はいっ!?」
「4番と5番ゲートを強制的にロックしろ!!」
「えっ!?それは管制室に言えば・・・」
「もう管制室は占拠されている!!だからお前がハッキングして閉めろ!!」
「はっ、はい!!」
何が何だかわからなかったが、永森博士の占拠という言い方から察するに、さっきの爆発音は敵が攻めてきた事を意味するものに違いない。
そして、既にその敵は管制室を抑え、この研究ラボ内に侵入している・・・敵の正体もわからないまま、とにかく俺は博士に言われた通り、管制室のコンピュータに急いでハッキングをかけ、強制的に4番・5番ゲートをロックした。
「ロックしました!!」
「よしっ、悟!!今度はこっちに来て手伝ってくれ!!」
永森博士は何やら必死でデータのバックアップを取っているようだ。博士の作業から推測して、次の作業行程のバックアップデータの解凍用プログラム打ち込みに取りかかった。
「流石だな、悟!!お前は何も言わなくても次に何をすればいいか判断できる。」
「当たり前です!助手ですから!!」
ドォォォォーーーーーーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!
さっきよりも近い場所での爆発音・・・どうやらロックしたゲートが破壊された模様。
「バックアップデータ出来ました!次は敵の足止めですか!?任せて下さい!!」
敵の正体はわからなかったが、ここは研究ラボ・・・言わばホームなのだから、敵がどんな重火器を持っていようが、周りのコンピュータを駆使すれば正体不明の敵にも対抗出来ると俺は考えていた。
「駄目だ!!悟、お前には違う目的がある!!これを・・・このバックアップメモリーを持ってその脱出口から脱出ポッドで逃げろ!!逃げる先は地球だ!!」
「何言ってるんですか!?だったら博士も一緒に!!」
「駄目だ!!私よりもこのメモリーの方が大事だ!!人類にとって!!」
人類の運命を左右する研究がこのバックアップメモリーの中に入っているのだろうか?
「いやっ、やっぱり出来ません!!」
「やめろっ、悟!!・・・はっ離せっ!!」
俺は脱出口の取手に捕まり這い上がると、永森博士を掴んで脱出口に放り込もうとして揉み合いになる・・・
ゴォォォォォォォーーーーーーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!
一瞬、閃光が見えたかと思うと、すぐさま爆風が押し寄せて来た。
俺の体はひとたまりもなく吹き飛ばされ、壁に激突する。体の至る所の感覚がない・・・見ると右腕が逆の方向に曲がっていた。
「脱出口にいけ!!」
そこから先はあまりよく覚えていない。脱出ポッドまでスルスルと滑り落ちる間に少し意識を失った・・・。
悲しみより先に全身に激痛が走る。至る箇所で骨折している。右手右足は動かない。左手は使える・・・俺は血や涙を流しながら、脱出ポッドに備えられている応急道具を使い、自分に麻酔をうち、応急処置をした。そして、脱出ポッドをそのまま大気圏に突入させ…博士の言葉通り、地球へと落ち延びた。
これが、4年前の宇宙ラボ襲撃事件・・・。
地球に着いたら、すぐに救護用ロボットがやって来て病院に搬送された。そして、8ヶ月間の入院・・・。
大怪我をしたものの俺は生き残れた。しかし、それ以外は全て失った。
地球に逃げ落ちて、意識が戻った直後、搬送された病院の方から脱出ポッド及び衣服に入っていた所持物について確認されたが、その中に例のバックアップメモリーも入っていた。
そして、退院後のリハビリ用にと医療関係の伝で譲ってもらった技術支援ロボットアンドロイドVYF104型00100の人工知能AI内にこの復元したメモリーを取り付けた・・・カモフラージュして隠したのだった。
そして、今に至る。
「マスター!お食事にしますか?お風呂にしますか?それとも・・・・
なんだろうか…永森博士から託されたのがこれだったのだろうか。
「アリス、何をどう理解して、その言葉が出て来たのか説明してもらえるか!?」
普通の支援ロボットに搭載されている人工知能AIは限られた反応・行動パターンをするだけで、拡張機能も搭載可能だがスペックは限られている・・・はずだったが、永森博士に託されたバックアップメモリーを取り付け後は情報集積・解析能力が24倍にアップした・・・ そして・・・
『 ち ょ っ と エ ロ く な っ た 』
という結果だろうか…??
「おい、アリス。」
「はい、マスター!!」
「なんでお前、そんな恋愛脳なの・・・!!??ストックデータの中も恋愛関係の言葉ばっかり蓄積されているんだけど・・・!!??」
「はい!もちろん、マスターのためだからです!マスターが一番好む情報を集積していくのが、支援ロボットの役目。恋愛方面…エロ方面に特化するのは当然の結果なのです!」
「はい、マスター!!」
「てめぇーーーは!!もう少し容量を考えろ!!恋だの愛だの、ピンク系の言葉で容量を埋め尽くす気かーーーッ!!」
「大丈夫ですマスター!!マスターのエロ画像・動画フォルダはちゃんとパスワード式にして保管してありますので、安心して下さい!!それに、お気に入りについては、SNSで他のユーザー様にも公表して、関連物を集めていますから!!」
「勝ってな事するなーーーーーッ!!!」
永森博士が託した全人類の希望とは・・・こんなものだったんだろうか・・・