WEB小説 拡張された世界 〜第一章12〜
「対象まで距離2700m・・・周辺にはオーグセキュリティ支局の警備車両が追走中です。」
アリスの報告通り、オーグセキュリティ支局の車が、暴走する列車とかなり距離を取りながら追跡している。対象に近づき過ぎると、見えない攻撃に晒されるので当然距離を取らざるおえない状況だ。
「まもなく、着陸します。着地コードをナビゲートします。」
「了解!」
モニターに映る誘導ラインに沿って、ブースターを効かせながらエムズは問題なく着地した。
オーグセキュリティEから現場までの何百キロの距離をジャンプ移動でやってきたのだ。これは、セキュリティEからの派遣組の中では一番乗りで現場に到着した事になる。
「アリス、対象まで距離は・・・?」
「1800mです。」
「よし、じゃあ始めますか!?ブライアさん、コクピットのハッチを開けてもらえますか?」
「ああ、了解!どうする気だ!?」
「対象を目視します!」
暴走する列車・・・その真の対象というのは、今モニターに映っている付随車両ではなく、その後ろの車両・・・拡張世界(オーグリアリティ)を使ったステルスコーティングによって透明化された装甲列車の方である。
俺は、眼鏡を外すと拡張世界は目に写り込まず、本当の世界を見る事が出来る。だから、透明化された車両の本当の姿も目視する事が出来るのだ。
「マスター、ヘッドギアを!」
俺はアリスから小型ヘッドギアを受け取り、エムズのコクピットから身を乗り出して外へ出た・・・そして、ヘッドギアを装着して眼鏡を外す。眼下には真っ白の世界が広がる・・・これが、この世界の真の姿だ。
「エムズをレールラインに乗せて追走してらえますか?」
「了解!」
エムズは着地してからは公道を走っていたが、ジャンプしてレールライン上(線路上)に移動した。障害物のない真後ろから対象を捕捉する為だ。
「対象にロックオンされない程度に距離を詰めてもらえますか?」
「ああ、わかった!ヤバくなったら教えてくれよ、嬢ちゃん!?」
「了解です!」
どんどんと対象に近づくにつれて、その全容が明確に捕捉出来てきた。
付随車両の後ろを走るのは、かなりカスタマイズされているようだか、武器装甲から第17式機動装甲列車だと思われる。
第17式機動装甲列車・・・『オーグアーミー』と呼ばれるこの世界の軍隊機関用の兵器として開発された兵器だ。レールライン上の移動運搬を目的とし、防衛能力に優れた重兵器だ。
「後退する!」
と、ブライアさんは、いきなりエムズを急停止させた・・・どうやら対象に近付き過ぎたようだ。俺はコクピット内に転がるように戻り、急いでコクピットのハッチも閉じた。
「警戒レベルイエロー信号が出ました。距離は800mです。」
「そうか、データは取れたか?」
「はい、問題ありません!」
俺がコクピットから身を乗り出して、対象を目視する事は大きな意味を持つ・・・
「ブライアさん、今からこのモニターにあの透明列車の正体、御尊顔を映し出します!」
「そんな事が出来るのか!?」
「はい!俺が目視で対象を見た際の脳波情報をこのヘッドギアを通してアリスに伝達させました!」
「そして、私がエムズを通して対象に向けて超音波を出し、その反射の具合から対象の物体情報を演算しました!」
俺の目視情報とアリスの超音波演算を合わせる事で、拡張世界をキャンセルさせた真の現実世界を映し出す事が出来る・・・この世界人間のほとんどと機械やアンドロイドにはナノチップが埋め込まれており、デフォルトの状態で拡張世界を見る(見せられる)事になっているが、アリスが、俺が眼鏡を外した時に見える景色をどうしても見たいというので考え出した拡張世界キャンセルシステムだ。
「それでは、切り替えます!」
・・・・・・・・・
モニターが一旦真っ黒になって、次に映ったその景色は、俺がさっきまで眼鏡を外して見ていた灰色の真の世界だ。その灰色の中をレールラインが続く・・・前方に見えるのは、完全武装された第17式機動装甲列車だった。
WEB小説 拡張された世界 〜第一章11〜
・・・・・・・・・・・・・
「うぉぉぉぉぉーーーーーッッ!!」
対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)のコクピット内・・・
俺とブライアさんは絶叫していた・・・
・・・・少し前のこと・・・・
「大ジャンプって、現場までエムズでジャンプするってことか?」
「そう言う事です。こいつは基本陸上移動用ですが、高出力ジャンプが可能な機体です。」
「どうやって・・・その高出力ジャンプをするんだ?」
「まず先に二足歩行モードに切り替えて下さい。後は空に向かってラナウェイだけです!」
エムズの基本形態は4脚走行だが、上体を前屈みの姿勢にし、後ろ二本の脚を折り畳むと二足歩行モードに切り替わる。
その時、折り畳んだ後脚の折り目部分には噴射口が剥き出しとなり、ブースター機能として使用出来る。
二足歩行モードの目的は、ブースター推力による、無重力空間下での行動・移動だった。つまり、エムズは地上用だけでなく、宇宙空間や水中内での使用も実現させた汎用ロボットなのである。
・・・・・・・・・・・・・
「うぉぉぉぉぉーーーーーッッ!!」
空に向けて全開でブースターを稼動させると、エムズの機体は轟音と共に浮き上がったと思った・・・その瞬間、一気にGが掛かかり、空に向かって突き進む・・・まるでロケットを打ち上げるような感じだ。
「ずっと、このままでいいのか!?」
「はい、そのままでお願いします!」
ペダルを全開に踏み込むブライアさんが確認を求めてきたが、今はひたすら空へ駈け上がる他ない。
高度がどんどん上昇していく・・・と共にブースターのヒートゲージもどんどん上昇している。
「おい、そろそろブースターがヤバイんじゃないのか?」
「大丈夫です。そのまま踏み続けて下さい!」
「マスター、ヒートゲージが93%です。」
「おい、このままじゃ、オーバーヒートするんだが!」
「大丈夫です!大丈夫なはずです・・・!」
・・・さっき見たこのエムズの取説的には大丈夫なはずだ。
「ヒートゲージ98%・・・99%・・・!!」
・・・ そして ・・・
ガチャンッッ!!
モニターに赤く警告されていたヒートゲージが青くなり、ゲージも一気に下がる・・・オーバーヒート状態となった。
「うわぁぁぁーーーッッ!」
機体の上昇もストップし、バランスが崩れる・・・そのまま降下してしまいそうかとなった瞬間・・・
ガチャンッッ!!
再び機体の一部が切り替るような音が鳴るとともに、ブースター噴射口から
高出力の燃焼エネルギーが発せられる。
「セカンドブースター!!??」
モニターに点滅するセカンドの文字・・・エムズは通常ブースターがオーバーヒートを起こすと、セカンドブースターに切り替えられる構造になっていた。
「こんな機能、マニュアルにも何処にも書かれていなかったぞ!」
「そうです!俺もさっきシステムを構築している段階で見つけたんです。元々、この機能が使えないようになってましたがシステムをいじって使えるようにしてみました。」
エムズの開発者は何故このような、機能を搭載させているのにそれを使えなくしたのだろうか?
おそらくは、この世界を統治管理するコンピュータ『リアース』は、人間達に武器を持たせる際、制限を設ける・・・限られたスペックの武器のみ使用できる事を許可しているので、このエムズの隠されたギミック機能は、開発者のリアースに対する細やかな反抗のようなものだろうか。
「とにかく、セカンドブースターでさらに天に昇りますよ!」
「ああっ!わかったよ、修理屋!」
・・・エムズはさらに上昇する・・・
「マスター、予定高度の9000mに達しました。」
「ブライアさん、出力を30%に調整して下さい。」
「了解!」
高度9000mの世界・・・エムズの真下には一面雲がどこまでも広がっている。この雲は今なお地球を覆っている、先の世界大戦の後遺症のような存在だ・・・という事は、この高度9000m上空では、拡張世界(オーグリアリティ)はどうなっているのだろうか疑問がわく・・・エムズのモニタ越しに見る景色は、真の地球の姿を映しているようにも思うが、俺はこの上空でコクピットハッチを開けて、外の景色を見てみたいが、今はそんな場合ではない・・・
「これより、アリスが目的地までナビゲートしますので、それに従って下さい!大降下作戦です!」
「了解!頼むぜ、嬢ちゃん!!」
「はい、ブライア様!これより、方角調整は自動モードに切り替えますので、出力調整はモニタ−に従って下さい。」
「了解!」
高度9000mの登山は終わり、いよいよ目的地(暴走列車)までの下山が始まる。
・・・ ブォォォォォーーーーーーーッッッ!!! ・・・
もの凄い風圧と重力を受け止めながら、降下するエムズ・・・時折、ブースターを吹かせて着地地点への調整を計る・・・少しでも出力調整を見誤れば機体バランスを崩してクルクル回転をはじめてしまいそうだが、流石歴戦のパイロットであるブライアさんは、安定した操縦を続けていた。
「高度1000mをきりました・・・対象まで間もなくです。左前方に目視で確認が出来ます。」
アリスの言葉通り、遥か前方に移動する物体が見えてきた。レールライン上を暴走する列車だ。エムズのモニタ−越しだと前の付随車両しか見えない・・・その後ろに、ステルスコーティングされたレール式戦闘装甲車が前の車両を押しながら走っていると推測される。
俺は緊張しているのか、少し体が震えていた・・・いやっ、これは武者震いだ。
WEB小説 拡張された世界 〜第一章10〜
ブライアさんに対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)の搭乗許可をもらった俺とアリスは、早速、エムズのコアコンピュータにアリスのコアを代理接続させる設定に取り掛かかる。
エムズとアリスをケーブル接続して、チョチョイと打ち込み設定すれば・・・ほらこの通り・・・
「接続設定完了しました!」
アリスとエムズが完全リンクされ、モニターには A L I C E という文字がエフェクト点滅している。
「これは、凄いな!」
「はい、基本操作は変わらず、レバーとペダルをお使い下さい。もしくは、私に話しかけてくれればそれに従います。」
「このお嬢ちゃん、凄い性能だな、修理屋!?一体、どんなAIを積んでるのか聞きたくなるよ!」
鋭い突っ込みを入れてくるブライアさん・・・流石にアリスのスペックを披露し過ぎ感はある・・・が、この一大事に躊躇っている暇はない。
「詮索すれば、この世界から消されるレベルのAIです。」
「そうか・・・まあ、深くは追求しないよ!それより今は、早く現場に向かわないとな!」
ブライアさんは深く詮索してくるような、そんな性格では無いとわかっていた。
「ドックハッチを開けてくれ!これより、現場へ急行する。」
ブライアさんがオペレーションルームに呼びかけ、ドッグハッチが開く・・・
「ブライア・イグニス、エムズ、発進する!!」
掛け声と共に、エムズが急加速して、ドックから発進した。
「オォォォォーーーッ!すげぇぇぇぇぇーーーーッ!!イグニスさんカッケーっスよ!アニメとかでやる本物の発信だ!」
俺はちょっとテンションが上がってしまう。俺もやりたい。
「マスター、はしゃぎ過ぎですよ!」
俺が調子に乗った発言をする時は。きっちりとアリスは突っ込みを入れてくれる。
「オーグセキュリティEを出た瞬間、晶子様から通信連絡が届いています。応答しますか?」
ひぇぇぇ〜、流石、鬼の笠原晶子課長・・・本来今頃は改修中のはずのエムズ一号機が発進したものだから、何というアンテナ・・・恐れ入ります。
「えぇっと、エムズ一号機は改修して間も無く、通信系統に異常が発見されております・・・という感じで、通信エラー信号を送り返しなさい。」
「了解です。マスター!」
「修理屋・・・」
「大丈夫です、ブライアさん!俺も一緒に謝ります!」
「そうか・・・笠原課長の鉄拳制裁はキツイぞ!」
「はい、よく知ってます。ですが、擬態化してバージョンアップした晶子のパンチは受けた事がないので凄く心配です。」
「ははっ!大丈夫!修理屋も擬態化すればいいだけだ!」
擬態化推しをしてくるブライアさんだったが、今、俺がしている事はオーグセキュリティ捜査官の犠牲を減らすためにしている事だから・・・と自分勝手な謎理論で勝手に俺は納得した。そして通信を遮断した。
「今、晶子達はどこにいるんだ?」
「オーグセキュリティ屋上で、輸送機へ搬入・搭乗されておりましたが、先程離陸された様子です。」
アリスの報告では、オーグセキュリティ所有の輸送機は、別の基地にあり、その手配には許可申請等含めて、少し時間がかかるらしい。これも、空輸や航空戦力を望まないリアース(地球の統治管理コンピュータ)の意思が働いているようだ。
「どちらが先に着くかなぁ!向こうは空から、こっちは陸からだから出遅れるかもな。」
「大丈夫です、ブライアさん!このエムズには秘策があります。必ず、現場へ先回り出来ます!」
「本当か!?」
「はい、実は自分もさっきこのエムズのシステムをいじっていた時に見つけただけなんですが・・・やってみましょう!」
「ああ、でもどうやってそんな高速移動するんだ?向こうは空輸だぞ!対して、こちらは陸上移動・・・」
「こちらも空から行くんです!空輸ではなく、大ジャンプで!!」
「大ジャンプ!?」
・・・対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)の隠された機能を使って現場へ最速で向かうことにした・・・
WEB小説 拡張された世界 〜第一章09〜
「悟っ!くれぐれも余計な事は考えないで依頼した仕事を続けてればいいから!!」
俺は晶子に改めて、事件に首を突っ込まないように釘を刺される。
「了解・・・事件解決・・・頑張れよ!」
晶子は俺とアリスを見ながら、少し頷くと現場へと向かう・・・小型戦闘車両など装備品を整えて、エレベータへ積み込み上昇ボタンを起動する・・・屋上のヘリポートから、輸送機で現場付近へ向かうそうだ。
「ブライアさんは、居残りですか!?」
「いやっ、俺はエムズ二号機で出撃かな・・・」
ブライアさんは、晶子達とは別行動を取り、本日俺が改修依頼されている対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)・・・その二号機で現場に向かうとの事。
「ブライアさん…もう少し、待ってくれませんか!?この一号機の改修がまもなく終わりますので!!」
「どれくらい?」
「15分くらいです!」
「・・・それで、修理屋も一緒に乗って試験調整しようって魂胆か?」
「そういうことです!」
晶子は頑なに俺の協力要請を断っている以上、本丸攻めではなく、外堀から攻める必要がある・・・だから、ブライアさんにアプローチを掛ける。
「無理だなぁ・・・それだけじゃ、課長に言い訳出来ないよ。」
「そうですか、それじゃ・・・」
とっておきの方法を提案しようとした瞬間、また警報音と共に列車暴走事件の続報が入る。
『先発隊が原因不明の攻撃を受けて後退、繰り返す・・・原因不明の攻撃を受けて後退。捜査官の安否は不明』
・・・恐れていた事が起こった・・・
暴走列車に最初に駆け付けた捜査官達が、列車に接触を試みる・・・そして、列車の後ろ…ステルス機能を搭載した装甲列車から攻撃を受けたに違いない。原因不明の攻撃という事は、装甲列車からの攻撃もステルスコーティングされているという事だろうか?だったらこの状況はかなりマズイ・・・
「アリス!ここの装備であの装甲列車に勝てるか??」
「現在の勝利確率は13%です。エネミーリサーチ後に確率は上昇します。」
「現場に駆け付けた捜査官は、当然ステルス対策はしてるはずなのに、それでも攻撃を当てられたのはどうしてだと思う?」
「おそらく、赤外線モードの死角から攻撃してきたものと推測されます。」
暴走する装甲列車は思考・策略を働かせる事が出来、捜査官の裏をかいて攻撃を撃ち込んだ・・・経緯から間違いなく人の電脳が搭載されているはずだ。
「なんと!・・・笠原課長!」
ブライアさんもこれからの行動・判断について、かなり迷っている様子だった。
「ブライア様、このまま敵戦力と戦闘になった場合・・・例え勝利したとしても自戦力の4割から7割の犠牲を払わなければならない演算結果になります。」
アリスの言葉にブライアさんの表情もさらに険しくなる。切迫した状況下で、俺はもう策をろうするのはやめ、正面からブライアさんにお願いする事にした。
「だから、ブライアさん!このドック内で一番戦闘スペックの高いエムズを使って下さい!」
「まだ出来上がってないだろ!?」
「メインコアコンピュータはまだ改修中ですが、代理のコアと繋げれば今からでも動きます!」
「代理のコアってどこに!?」
「ここにあります!」
俺は、アリスの頭にポンと右手を乗せて左手でアリスを指差す。
「お嬢ちゃんが代理のコンピュータになるっていうことか?」
「そうです。エムズの解析もしているので、操作系統の誤差も修正出来るはずです。そうだよな、アリス?」
「はい、マスター!誤差は0.007迄抑える事が出来ます。」
「現場に向かいながら、システムの組み立てもします!だから俺達に任せて下さい!」
「・・・あぁ。でもどうやって言い訳をするべきかな・・・」
「そこは任せて下さい!確か俺に逮捕状が出てましたよね?」
晶子は俺に逮捕状を用意してくれていた。容疑は『電子不純わいせつ容疑』・・・アンドロイドに対する数々の嫌がらせ行為に対する容疑という、とんでもない案件で逮捕状を本当に用意してくれていたのだ。
「容疑者として、俺月ヶ瀬悟は拘束され、エムズに搭乗し護送されている最中に事件が発生した。」
「当然、事件に解決にはエムズが必要であり、容疑者を拘束しつつ、現場に向かう行動を取った・・・というシナリオだな!?」
「そういう事です!」
暴走する装甲列車は、ステルス機能を搭載しており、まだ解析すら出来ていない状況・・・この段階での戦闘は自殺行為に等しい・・・だから誠心誠意でブライアさんにお願いする。
「修理屋!お嬢ちゃん!今回の事件・・・最後までナビゲート頼んだぞ!」
「はい!喜んでッ!」
俺とアリスは揃って返事した。
WEB小説 拡張された世界 〜第一章08〜
「大体、列車の暴走だって言うけど、鉄道屋で何とか対処出来ないのかな!?」
ブリーフィングルームでは、今回の事件についての概要説明が始まっていた。
ブライアさんが言うように、本来レールライン(鉄道機関)の管轄事件であったが、事件発生直後にレールラインから応援要請が届いたそうで、警察機関としては、少し困惑するものがあった。
「これを見て・・・!!」
メインモニタに現場映像・・・暴走している列車の映像が映し出される・・・
・・・一両の列車が時速60〜70kmで走行している映像だった・・・
「???」
「どうかしら??」
「なんで、暴走してるのが付随車両なんでしょうね・・・??? 一体、どこに動力が・・・」
この世界のレールライン上で運行される列車のほとんどは、動力車両と付随車両からなる動力分散連結方式で運行されていたが、今、画面に映し出されている暴走車両は、動力を持たない付随車両だった。
「サーモグラフ化映像に切り替えて!」
晶子の指示により、画面が赤外線サーモグラフィー映像に切り替わる。
「なっ!!!???」
ブリーフィングルームにどよめきが起こる。
・・・画面に映し出されたのは、暴走している付随車両の後ろに、もう一台の車両が連結して押すように走行している映像だった。
「暴走の原因はこれか!!??」
「でも、なんで標準カメラには映らないんだ・・・??」
捜査官達がざわつく・・・しかし、それを遮るように俺はしゃしゃり出た。
「 ス テ ル ス コ ー テ ィ ン グ で す よ ! ! 」
ステルスコーティングとは、目に見えないように物を透明化する技術の事である。正確に言うと、人や機械が対象物を判別出来ないようにハッキングする技術の事である。
この世界は拡張世界(オーグリアリティ)に覆われており、人間の目にはその拡張世界の映像がデフォルトで見えるようになっている。その拡張世界を作り出すシステムに干渉する事で、拡張世界から対象物を消す(見えなくさせる)技術・・・それが、ステルスコーティングであったが、この技術を使用出来る人間は、基本的にはごくわずかな機関の者だけとなっていた。
「悟!?何であなたがここにいるの??部外者は立ち入り禁止!!どうして入って来られたのよ!?」
かなり怒っている様子の晶子だったが、このブリーフィングルームに入れるように疑似セキュリティパスをさっき作らせてもらいました・・・
「ステルスコーティング出来て、尚且つ・・・サーモグラフ化映像をよく見てください!!」
一同の視線が画面に集まった所で、俺は話はじめる・・・
「前の車両、後ろの車両ともに映像には、人の影が全く映っていません。つまりは無人機です。しかも後ろの車両はこの画像だけでは断言出来ませんが、おそらく影の形状から見ると”レール式戦闘装甲列車”と思われます。」
「レール式戦闘装甲列車!!??」
先程よりも強いどよめきが起きる。
「”ステルスコーティングされたレール式戦闘装甲列車”・・・て、軍隊要請レベルじゃない!!だから、問答無用で私達に振って来た訳ね。」
事件の規模からして、レールライン(鉄道機関)で対処出来るレベルではなかったのだ。
「そこで、俺、月ヶ瀬悟の出番だよ!俺は、ここにいる皆さんと違って、頭にチップが入っていない。だから、拡張世界(オーグリアリティ)に惑わされる事なく、肉眼でその暴走列車を見れば、どんな装備でどんなスペックなのかを解析する事が出来る!」
「そう言えば、悟はキャンセラーだったわね・・・」
この世界にわずかに存在する脳内にナノチップを埋め込んでいない人間・・・ナノチップを埋め込んでいないので拡張世界(オーグリアリティ)が目に映ることもない人間・・・そういった部類の人間は、キャンセラーと呼ばれていた。
「そうだよ!曇りなき眼で真実を見る事が出来る目・・・俺があの暴走列車の正体をを暴いてやる!!」
「わかったわ・・・悟・・・」
「俺を現場に連れて行ってくれ!!」
「 部 外 者 は す っ こ ん で ろ ッ ッ ! ! 」
俺とアリスはドックへと放り出された・・・民間人に任せられる訳がない!しゃしゃり出るのもいい加減にしなさいと、鬼の形相の晶子に一喝されてしまった。
「マスター、ダメでしたね・・・」
「あぁ・・・でも、俺がここであきらめると思う・・・?」
「いいえ。マスターはしぶといのが取り柄の人です!」
「よくわかってんな、アリスは!?」
「はい、マスターのアリスですから!!それに・・・」
「・・・さっきの映像・・・ちょっと、ヤバそうな感じだよな!?」
「はい、ここ(オーグセキュリティ)の装備レベルで対処出来るかどうかです。」
・・・晶子達、オーグセキュリティE-03部の捜査官達は、事件現場に向けての準備を初めている。先発隊の捜査官達は、既に事件現場(暴走列車)へ出動したそうだ。
俺とアリスは、次の行動について考え始めた・・・
WEB小説 拡張された世界 〜キャラ紹介05〜
対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03 (エムズ)
イメージ図(こんな感じ)
【オーグセキュリティE 03部所有】
※物語の進行により追加予定です
WEB小説 拡張された世界 〜第一章07〜
エムズ(対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03)のメインコアコンピュータを作り直すために、俺はコクピットのシートに座りなら、プログラムを打ち込んでいる。
「マスター、失礼します。」
と言いながら、アリスは割り込むように俺の膝の上にちょこんと座ってくる・・・
「アリス、何やってんの??邪魔なんだけど・・・!?」
「いえっ、マスターのお手伝いをしようと思いまして・・・!」
「手伝うどころか、お前の頭が邪魔でモニタが見えないし、動きづらいし・・・てか、何で俺の膝に座ってんの!?」
「マスターが喜ぶと思って・・・」
「そんな事では喜ばないし(ちょっと嬉しいけど)作業効率ダウンだから、座席の後ろでデータ構築処理してもらえるかなぁーーー!!??」
「だって、こうしてマスターと一緒に現場で作業出来るのが3ヶ月ぶりなので・・・もっとマスターの近くに居たいんです!」
「アリス・・・」
「マスターが私を見てムラムラして、心拍数を上昇させるようにする事が、今私にとって一番重要なミッションです。」
「アリスちゃん、そんなミッション一言も命令した覚えはないよ!どこからの命令かな!!??」
「 ヒ ミ ツ で す ♡ 」
「 立 ち 去 れ ぃ っ ! ! 」
膝の上に座るアリスを追い出そうと揉み合いになっている所・・・
「お熱い所、申し訳ないけど、ちゃんと仕事してくれよ、修理屋!」
「違うんです、ブライアさん!これは、こいつが・・・って、俺はそんな趣味はないです!!」
「マスターは年齢で言うと、約14歳〜47歳ととても守備範囲の広い女性の嗜好・・・」
「いいから、お前は黙ってろ!!」
アリスを追い出して、ブライアさんにコクピットに座ってもらい、進行状況を確認頂く事にした。
「まだ、右腕部分しか構築出来ていませんが、反応誤差が0.8%減少させられました。」
「ん〜、まだ何とも言えないけど、ガトリンクを使えば実感できそうだな。」
「まあ、こんな感じで改修していきますので、もう少し待っていて下さい!」
「ああ、期待してるからな、修理屋!」
ブライア・イグニスのおやっさんは、気さくで頼りがいのあるオーグセキュリティの捜査官だ。経験も豊富で、このオーグセキュリティに務める若手職員の相談相手にもなっており、03部以外の部に所属する職員とのパイプ役もこなしているらしい。おやっさんが晶子をサポートしてくれているからこそ、オーグセキュリティE-03部はこれまで数々の事件を解決して成果を挙げ続けていられる。
「晶子は相変わらずそうですね?」
「ああ、俺達オーグセキュリティのアイドル…笠原晶子課長は常に事件と向き合い、常に事件解決に向けて全力を注ぐ・・・そんな俺達職員の理想を体現したようなヒロインだよ。」
「晶子が・・・ヒロインですか・・・ここは相当な人材不足ですね。」
「いやいや、そんな事はないよ!笠原課長の親父さんは、オーグセキュリティB長官ってこともあるけど、事件現場の前線で指揮する課長の勇姿は絶対に惚れるぜ!」
「そんな、長官の娘がなんでキャリアの道を踏まずに、全身擬態化電脳化してまで最前線に立つんでしょうね??」
晶子は、この世界・・・人間社会の治安を脅かす事件に対して、恐ろしい程の執着心を持っている。それに気づいたのは、俺が地球に落ちて来て、病院を退院した後の事だった。俺が入院している時、何度も訪ねてくれた彼女だが、彼女の思想は大学時代と比べると大きく変わったように思う。
一つの漏れも出さないように犯罪者を徹底的に探す・・・そして、潰す・・・そんな感じだった。
なぜ、そこまで執着できるのかについて、聞こうかと思った事もあったが聞けなかった。何かパンドラの箱を開けてしまうような気がしたからだ。
・・・その時だった・・・
ブワァーンッッッ!!ブワァーンッッッ!!ブワァーンッッッ!!ブワァーンッッッ!!
緊急警報がフロアに響き渡る・・・続いてアナウンスが鳴り響く・・・
『 事件発生・・・事件発生・・・情報局から入電。エリア07-17から07-16エリアへのナンバーズライン上で鉄道車両1両が暴走。原因は現在解析中・・・。 』
ナンバーズラインというのは、人間の居住区を繋ぐパイプラインで、その上を旧時代の産物とも言えるレール式の鉄道が走り、人々の移動手段となっている。この世界のインフラ環境は、空輸は極力制限され、レール式の鉄道や幹線道路が主流となっている。それが、リアースが決めたこの世界の方針だ。
その鉄道路線上で列車が暴走しているらしい。
「修理屋、ちょっとすまんな!」
ブライアさんは飛び出すようにブリーフィングルームへと向かった。事件が起きると捜査官達はまず先にブリーフィングルームに集まるのがルールのようだ。
「マスター!!」
「うん、俺達も”ちら〜っと”見に行こうか!!」
「はい、マスター!!」
俺達もブリーフィングルームへと向かった。