8mgの小説ブログ

WEB小説(ちょっと挿絵)のブログです。ブログ形式だと順番的に少し読みにくいかもですが、一章ごとに完成したら、別サイトにアップしたいと考えています。※このサイトはリンクフリーです。

20210220223629

WEB小説『画面の向こうのプロレスラー』をメインで更新中!ちょっとアレな性格の女子レスラーの成長物語ですm(_ _)m

WEB小説 拡張された世界 〜第一章06〜

どこから手をつけようか・・・

まずはこのエムズ(対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03)の現状スペック解析から始める事にした・・・ 

 
「マスター!解析を始めます。約2分程お待ち下さい。」
アリスの左耳に付いている差し込み口とエムズの内部コンピュータとをケーブルを使って有線回線で繋げる。情報解析能力にも長けたアリスにとっては、どんな機械でも診断する事は可能だ。

アリスが診断している間…笠原晶子やブライアさんにエムズに何が足らないのかを聞くと、揃って操作性について問題を指摘した。
 
「エムズの操作系統は何回も改修してるのよ!でも、搭乗するとなぜか思うようにいかないの!」
 
「それはパイロットの力量不足なのでは?」

「悟!後でエムズの戦闘シュミレーターで模擬戦してみよっか!?」
 
「いっ、いえ!丁重にお断りさせて頂きます、はい。」

素人の俺相手に笠原晶子は大人げなく本気で突っ込んでくる未来が見える・・・彼女は負けず嫌いの化身だ。


「マスター、解析終わりました。結果を報告します。」
そう言いながら、アリスは丁寧にもコクピットモニターに解析結果を映し出してくれる。

・・・0と1の羅列がモニタ画面ぎっしりに埋め尽くされている・・・

「何が書いてあるかさっぱりわからない。言語プログラムで変換してもらえる?」 

「いやっ、大丈夫。大体何が問題なのかは解ったよ。つまり、あれだ!
このエムズは、上半身と下半身にそれぞれ制御コンピュータが備えられていて、その2台のコンピュータを繋いでいるのが、識別AIを搭載したメインコアコンピュータだ。
でも、そのメインコンピュータは、一世代前のコアを使用しているため、情報処理部分でズレが生じ、それが操作性の違和感に繋がっている…という分析結果だ!」

「つまりは、最新型のコアに置き換えると解消するって事!?」

「そういう事!!だけどこのエムズタイプのコアコンピュータを手に入れるのはおそらく難しいと思う・・・。」
 
 

「どういうこと?」

「エムズの最新機種EMZ-00Fのメインコンピュータも、こいつと同じ古い世代のタイプだからだ。つまりは、古い世代のコンピュータで頑張って戦えよ!って事。エムズの次世代タイプのコアコンピュータを搭載しているのは、月面作業用ロボットLAMくらいしかないと思うから、そのコアが回ってくるのは・・・到底無理!」

「なんなのよ、それ!」

「こいつの性能をフルに発揮させたら、お前らオーグセキュリティが何かよからぬ事を考えるのでは?・・・と思ってるんじゃない!?」

「・・・・・・・・・・・・・」

笠原晶子は口には出さなかったが、かなりの怒りを感じている様子だった。
もちろん、その矛先はこの世界を統治・管理するコンピュータ『リアース』にだ。
この世界に住む人間達はリアースの統治の元で生きている。リアースは言わば、この世界の神的存在であり、その神から与えられた物や環境の中で人間は生きている。

その神は、人間達の世界を人間達の手で円滑に回すために、ある一定の武器を与えた。
でも、それはある一定のみで、それ以上を望む事は許されないのがこの世界の理なのである。

「私達にどうしろと言うのよ!」
震える声の笠原晶子に、俺は声を掛ける。

「大丈夫だ。晶子!!」
「そうです。マスターが今からコンピュータを作り直してくれるので、大丈夫です!!ねっ?マスター?」
「お前が言うか、アリス!?」
晶子の悲痛な想いは理解しているつもりだ。リアースから与えられた最低限の武器装備で最大限の効果を発揮させながら、この世界の治安を維持している。
もし、オーグセキュリティだけで手に負えない事態が起こった場合・・・いよいよ、リアースが動き出す事になるのだ。そう言った事件が発生した例は少なからず存在する。
 

地球上のあるエリアで、多発テロが起こり、暴動が発生した。そのエリアのオーグセキュリティでは収拾がつかなくり・・・その結果、リアースはある行動に出た。

・・・エリア全域を封鎖し、そのエリアの物・生物全てを消失させたのだ・・・

人間や動植物を含めた全ての物を消失させた。その方法については公開されていないが、この事件について、深く追及する事もタブーとされている。
そんな神の存在がある中で、晶子達オーグセキュリティは、この世界・人間社会の治安を維持していかなければならず、その苦労は容易に想像できる。だからこそ、俺はそんな中で戦う晶子に手をかさざる負えないのだ。

「それに、アリスが解析してくれた報告画面の後半部分にはな・・・”このY系回路をX系回路に繋げたらいいんじゃないかな~”とか”このプログラムを書き換えてほしいな~”とか色々書いてあるんだよ!頼んでないのに・・・」
アリスの分析報告欄には、現状の結果だけでなく、問題解決する為の、説明方法まで詳細に報告してくれていた。

「アリスちゃん!!」

「べっ、別にあなたのために解析サポートしたんじゃないんだからね!勘違いしないでよね!」

「アリス、お前・・・そのツンデレどこで覚えた!?」

「べっ、別にあなたに答える必要なんてないんだけど、今回だけ特別に言ってあげるわ!ユーザーが集まるアリスサーバーで覚えただけよ!」

「とりあえず、アリス!お前のそのふざけたツンデレプログラムデータを後で消去してやるからな!」

「晶子様、助けてください!マスターが私の中を覗こうとして・・・痴漢してくるんです!!それも毎日・・・!!」

「大丈夫よ!アリスちゃん!悟の逮捕状はいつでも用意してあるから!!」

いつの間にか、このアリスの電脳AIはどんどんと進化しているように思う。これが永森博士が俺に託した夢なのか・・・末恐ろしい、その片鱗を見た。


「まあ、現状のコンピュータプログラムをベースにつくり直す訳だから、そんなには時間は掛からない、今日中には出来ると思うよ!」

「ありがとう!悟!」
 
晶子の心の中のモヤモヤが少し和らいだろうか・・・?
少しの笑顔も見せながら、晶子は俺達に現場を託して立ち去る。アリスの分析結果をデータベース上に残すそうだ。
 
「じゃあ、始めるか、アリス!」

「はい、マスター!」

WEB小説 拡張された世界 〜第一章05〜

 「こんにちは。こうして直に会うのは初めてだね、アリスちゃん!」

「はい、笠原様。こちらこそよろしくお願いします。」 

 「晶子でいいわよ。いつも、ありがとね!」

「はい、晶子様!!」 


俺を無視してアリスと笠原晶子は会話を始める・・・彼女とアリスとは、よく連絡を取り合っているような話し振り。



「おいっ、アリス!お前と晶子って・・・」 
「はい、晶子様とは仕事依頼のやり取りだけではなく、よくスカイコールを通じて近況を報告させて頂いています。」
 「近況って、まさか・・・!?」

「もちろん、マスターの近況です!」
・・・アリスは何かとんでもない事を口にしたような気がする・・・

「おいっ!!何でもかんでも好き勝手に話してないだろうな!!??」

「大丈夫です!マスターは何を食べたとか・・・私を食べてくれないとか・・・もうちょっとで食べてくれそうとか・・・そんな話です!!」

「ひっ、ひぃぃぃっっっっ!!」

・・・アリスは、完全にアウトな事、アウトな情報を喋ってる・・・もう、俺は笠原晶子の顔を見て会話できそうにない・・・

 

f:id:home8mg:20170115182030j:plain

「大丈夫よ、悟・・・!話は色々と聞いてるから!!今どんな女性が好みなのか・・・とか・・・その歪んだ性癖の事をたっぷりとね!!あなたの性癖について語り合うSNSのチャットにも参加した事があるのよ、私!」

そう言う笠原晶子は、笑顔をこちらに向けてくれているが、完全に殺しに掛かってくる微笑みだった。

 

「マスターは下は14歳・・・上は47歳と・・・とても守備範囲の広い女性嗜好年齢をお持ちです(キリッ)!!そんなマスターにとって今一番HOTなのは、乱れたキャリアウーマン!!」
「アリスちゃん、、、頼むから余計な事言わないでッ!!」

 

 

 

前方からの冷ややかな視線が厳しいが、俺は本題を切り出す。

 

「今日呼ばれたのって、修理の仕事だよな!?」

「付いて来て!」

 

俺とアリスは笠原晶子に案内され、このオーグセキュリティE-03部所有の戦闘車両ゴックとやってきた。重兵器・戦闘車両等がフロア一帯に並んでいる。



「よっ!!修理屋っ!!」

「ブライアさん!!」

ドッグへやって来た俺に話掛けてきた人物は、このオーグセキュリティE-03部職員で強硬犯係のブライヤ・イグニスさん・・・気さくだけど頼りがいのある、渋くていい感じのおやっさんだ。


「修理屋は、いつになったら擬態化するんだよ!?」

「いや、今の所予定はありませんよ!」

「擬態はいいぞ!斬られても、弾丸や砲弾喰らっても死なないからな!」

「いやいや、そんな状況滅多にないですから!まあ、昔…死にかけた事は色々ありましたけど、やっぱり擬態化はしません!」


このオーグセキュリティE-03部の職員の殆どは、擬態化や電脳化している。もちろん、笠原晶子もブライヤのおやっさんも擬態化&電脳化のフルモデルだ。
生身の肉体を捨てて、危険に立ち向かおうとするその精神には頭が下がるばかりだが、この世界では、オーグセキュリティのような警察機構の人間や傭兵など危険を伴う仕事につく者は、自身の体を擬態化させる傾向がある。また、怪我や病などで身体機能を失った者も擬態化により再び健常者として復帰できる事や、この世界で擬態化や電脳化は決して珍しい事ではなく、ごく一般的な選択肢の一つだ。
一方、俺のように擬態化・電脳化しない人間も数多くいる事も事実ではあるが、世界規模の流行病(パンデミック)等が発生した際には擬態化が一気に進む傾向がある。


ブライヤさんも加わってドックの奥に足を進める・・・



「今日の依頼はこれよ!」

「EMZ…」

「そう、対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03、通称エムズよ!」


二手四足型の戦闘装甲車エムズ。一人乗りの戦闘車両であるが、コクピット空間は広めで、内部に武器を積んで戦地まで強襲を掛ける為の安定性・汎用性に特化したロボットと言える。俺は以前、NAGAMORI研究所でこういった類いの戦闘車両と毎日にらめっこしていた思い出がある。



「で、どの辺りを修理すればいいんだ?」


「もちろん!情報処理能力のスペック向上にエンジンブースターの効率化をお願いするわ!」


「”修理”・・・ですよね??」


「んっ?何か問題でも?それとも逮捕されたいの?」



あまりに横暴・・・わかってはいたが、笠原晶子の俺に対する態度は常に高圧的である。修理という名の改修が目的である。


「まあまあ、修理屋!!曲げて頼むよ!!こいつを運転したパイロットは皆反応の鈍さに乗るのを嫌がるんだ!!まあ、それ込みで俺は好きだけどな!!」
俺の気持ちを察してか、ブライヤさんがフォローを入れてくれる。



「私達は今、ある武器・装備で、ギリギリにやってるけど、いつもホントにギリギリなの!一歩間違えば全滅もありうる…そんな状態なの!!でも、上に掛け合っても現状維持ばかり・・・私は職員の命を預かっている立場だから、なりふり構わず出来る事をする!だから、悟、お願いします!!」
そう言う笠原晶子…彼女の目は真剣で、執念にも似た嘆願をされたら、俺は断る事は出来ない。


「わかってるよ!だから今日はこいつを連れて来たんだ!」

「アリスちゃん?」

「こいつは優秀だからな!俺達にお任せ下さい、晶子様!でも報酬はちゃんとたんまり頂くからな!!」

「もちろん!ありがとう、お願いね、悟、アリスちゃん!」 


こうして、俺は対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03の改修に取りかかる事になった。

 

WEB小説 拡張された世界 〜キャラ紹介03〜

笠原晶子(かさはら あきこ)32歳

 

f:id:home8mg:20170113165157j:plain





【リアース 07-17エリア在住】
職業:オーグセキュリティE 03部所属
経歴:フラフス工科大学卒

[※物語の進行によって、追加・修正する予定です]

WEB小説 拡張された世界 〜第一章04〜

「着いたな!」

「着きましたね!マスター!」
 
眼前に広がるのは、オーグセキュリティE…この世界の警察機関のひとつだ。
地球上07-17エリアを統轄する警察機関だけあって、建物の規模はとてつもなく大きい。統括する部の種類も多岐に分類化され、犯罪者の拘留施設も内部には存在するこのオーグセキュリティEは、地上30階 地下20階・・・まるで都市のような大規模施設となっていた。
 
「広いな!」
「広いですね!マスター!」

オーグセキュリティEの内部は吹き抜け構造になっている。そして、その巨大な吹き抜け空間の中心部には、大きな球体型の建物が威圧感を放っており、中枢機関とコアシステムコンピュータ、制御フロア等が位置している。
 
「アリス、お前がここに来るのは初めてだったよな?」
「はい、マスター!私の本体がここオーグセキュリティEに入るのは初めてです!
・・・ですが、ここの交通情報統治データベースがかなり使いやすく、よくナノマシーンを侵入させデータベースから情報を頂いています(^_^キリッ!」
 
とりあえず、今の話は聞かなかった事にしようと俺は決めた・・・にしても、オーグセキュリティ・・・警察機関が、この少女ロボットの手先に度々侵入を許してザル警備なの?”セキュリティ”って名乗ってもいいの・・・?
 
俺は何も知らなかったんだ、俺には関係ない話だ、でも捕まるのは・・・俺だ!
 
「アリス…」
「はい、どうしましたかマスター??」
「とりあえず、ナノマシーンを侵入させるのは禁止!後、他にも公共施設への侵入は、仮にどうしても必要な時はまず俺に相談しないさい!後、絶対に捕まらない、足跡を残さないように!」
「了解です!マスター!」 
 
 
球体型の建物の四方を50階建のビルが覆う構造のオーグセキュリティE・・・その東の外れに今回の依頼者、大学時代の同級生…笠原晶子が務める03部が存在する。
 
03部は主に電子系の事件対策を担うカテゴリーに位置する。強行犯係のような危険な任務も多いらしく、現在支給されている武器・装備では心もとないと言うのが実情らしい。また、装備品の向上申請を出しても認可されないのが殆どで、その背景には人間に高性能の武器を持たせないようにするこの世界を統轄するコンピュータ『リアース』の意向が働いているそうだ。
 
「だから、私達は今ある装備で何とかしなくちゃいけないの!!私達がどれだけ大変なのか、わかるでしょっ、悟!!」
 
長い審査の後に03部へ入った俺とアリスの元に、入館一番話し掛けてきたのは、オーグセキュリティE-03部の捜査官主任課長を務める笠原晶子だった。

WEB小説 拡張された世界 〜第一章03〜

「ところでさ、アリス。」
「はい、何でしょうかマスター!!」
「今日の仕事の報酬とVRサーバー報酬とで今期はなんとかなりそうかな?」
「はい、もう現時点でクラスB++分の 税務PAYは確保していますのでご安心を! 」

・・・この世界は全て電子マネー・・・いわゆる"マネーポイント制度"で統一されている。同時に、老若男女問わずこの世界の一人一人には納税の義務が課せられており、それが『税務PAY』 と呼ばれるシステムで、一年に二度電子マネーをリアースに納める形となっている。

正確に言うと "納めなくてもよい" のだが、電子マネー(CASH)を納める額によって、一人一人を所得階級分けし、その階級によってこの世界で受けられる福利厚生サービス内容が変わってくるというシステムだ。 『税務PAY』をより多く納めたSSクラスの人間は、この世界のほとんどの公共機関を顔パスで入る事が出来、また多くの条件下で優遇される・・・逆に、 全く納めない人間は ”KKクラス” といい、この世界の公共機関の利用不可、また居住権も剥奪され専門労働施設送りにされるケースもある。

俺、月ヶ瀬悟率いる『月ヶ瀬修理店』 も、住居兼オフィスの 立地条件や待遇を考えると半期納税 クラスB++確保を最低ノルマとして勤しんでいるが・・・アリス曰く、 今期のノルマは越えたとの事で少し安心した。

「すごいな!どこで利益を出したんだ!?」
「はい、マスター!現収入比率ですが、マスターの修理業からの収入が全体の37%、レンタルVRサーバーからの収入が55%、そして残り8%が前年からの繰り越し額です!」
VRサーバーって、そっ、そんなに売上叩き出してんの!?」

月ヶ瀬修理店の駐車場地下には、一台の大型スーパーコンピュータが設置されている。

その名は『スーパーコンピュータ=アリス』だ。
まんまの名前の通り、目の前の支援アンドロイド『アリス』と地下のスパコン『アリスとはお互いをリンク共有しており、スパコンから収集されたデータを即時にアリスの脳内AIに送り込む事が出来る。

見た目は少女ロボットのアリスだが、 スパコンと情報共有させる事で、『自分で喋って歩く事も出来る百科事典兼コンピュータ』を実現させたスーパーアンドロイドだ。

「・・・ところでマスター!」

「なんだ?」

「仕事依頼のメールが届いています。」

「どこから?」

「受信先はオーグセキュリティE-03・・・依頼主は笠部晶子様からです。」

「・・・・・晶子からか・・・?」
 
「はい、晶子さんからです、マスター!!」


『オーグセキュリティ』というのは、いわゆるこの世界の警察機構の事。リアースにより統治・管理されているこの世界において、警察機関もコンピュータ化されるはずであったが、リアースの判断は人間による人間の犯罪への対処だった。

コンピュータによる全面治安維持の方法では、人間は”支配されて生きている”という概念がますます増えるのではないか・・・そういった支配観念を軽減させる為、リアースはこの世界に対してかなり寛容なシステムを敷いている。 

人間の居住区に点在する人による警察機関・・・それがオーグセキュリティである。その中のひとつ、オーグセキュリティE-03部の課長を務めるのが、今回の依頼主『笠部晶子』である。

ちなみに彼女、笠部晶子と俺、 月ヶ瀬悟は大学時代の同級生である。

俺は物心ついた頃から永森博士の研究ラボで生きてきたが、博士は俺に教育機関で色々な事を学ぶようにと進学・在籍を手配してくれた。

電脳工学を学ぶために2年間程工科大学に通っていた事がある。その時に学友が笠部晶子だった。彼女とは・・・色々あったが、あまり思い出したくない・・・ふたを閉めて釘を打ち込みたい思い出といった所・・・




「笠部様の依頼内容は、対犯罪者用戦闘ロボットの修理です!」

「修理と言う名の改修だろ!!」

 「そんな記述はどこにも・・・あっ、でも笠部様からの備考メッセージがあります。」
 
アリスがモニターにそのメッセージを映してくれる・・・ 

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 
 (๑˃̵ᴗ˂̵)و 悟 ! 逃 げ な い で ね ♡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

すごくシンプルだ・・・それでいて、すごく恐怖を感じるメッセージだった。3◯歳のB◯A・・・いやっ、お姉さんがどんな顔して語尾のハートマークを打ち込んでいたかと思うと、俺は吐きそうになる。
 
大学時代から何かと俺に絡んでくるのが笠部晶子と言う人間だったが、この歳になった今、お互い立場が変わった今でも昔と変わらなかった。

「アリス!!明日の仕事はお前の力も必要そうだから来るように!」

「ホントですか!!マスター!!やたーッ!!」

嬉しそうに飛び上がるアリス・・・まるで人間のようなリアクションも最近だと普通に出来るようになってきている。

「アリス、くれぐれも言っておくけど、家の外で俺以外の人間には、お前のハイスペックをあまり見せびらかしたらダメだからな!!お前が賢過ぎる事がバレれば色んな連中から目を付けられるからな!!」

「はい、心得ておりますマスター!! 」

俺は、永森博士に託された研究メモリデータをアリスの脳内AIに取り付けた。そして、アリスを使ってその託された夢を完遂しなければならない。だからこそ、アリスの事は他人にはまだ詳しくは話さないようにしている。

WEB小説 拡張された世界 〜第一章02〜

今から4年前の事・・・ 

地球の衛星軌道上に浮かぶ、国際宇宙研究ラボ・・・ 

このような研究機関がいくつも衛星軌道には存在していたが、その中のひとつ技術工学の顕位である永森雄一博士が館長を務める「NAGAMORI機関」の研究職員として俺は働いていた。

地球で生まれた俺は幼少の頃、恩師の永森雄一博士に連れられて、衛星軌道に登った。それからは、宇宙と地球を行き来しながら育ち、工学や電脳学等、技術者として学び、育ての親でもある永森博士の研究機関で博士をサポートしていた。


宇宙空間においては、朝・昼・晩という規則性を持たせ、地球上と同等の環境を作り、そこで生活するのが一般的であったが、研究施設によっては、朝・昼・晩の生活サイクル概念を捨てて、研究に没頭するヘビーな研究所も存在した。NAGAMORI機関もその類いのひとつで、私もとりあえず限界まで働き、寝て起きて、また研究して・・・そんな生活を送っていた。


そんなある日・・・

ドォォォォーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!

ものすごい轟音だった。場所は遠く方でと思われるが、もの凄い爆発音で私は飛び起きた。


研究ラボの無重力回廊でプカプカ浮きながら寝ていた俺だったが、飛び起きた直後、研究所職員達は慌ただしく現状把握に努める。永森博士の研究室に戻る途中、どうやら大きな爆発音と共に火災が発生している情報もアナウンスされていた。


「博士ーーーー!!!」

「戻ったか、悟!!」

 

「一体何がっ!!??」

 

「話は後だ!お前に頼みがある。」
そう言う永森博士の表情は、これまで見てきたものとは全く違う真剣で切迫した表情だった。

「はいっ!?」
「4番と5番ゲートを強制的にロックしろ!!」
「えっ!?それは管制室に言えば・・・」
「もう管制室は占拠されている!!だからお前がハッキングして閉めろ!!」
「はっ、はい!!」

何が何だかわからなかったが、永森博士の占拠という言い方から察するに、さっきの爆発音は敵が攻めてきた事を意味するものに違いない。

そして、既にその敵は管制室を抑え、この研究ラボ内に侵入している・・・敵の正体もわからないまま、とにかく俺は博士に言われた通り、管制室のコンピュータに急いでハッキングをかけ、強制的に4番・5番ゲートをロックした。 


「ロックしました!!」 
「よしっ、悟!!今度はこっちに来て手伝ってくれ!!」
 
永森博士は何やら必死でデータのバックアップを取っているようだ。博士の作業から推測して、次の作業行程のバックアップデータの解凍用プログラム打ち込みに取りかかった。

「流石だな、悟!!お前は何も言わなくても次に何をすればいいか判断できる。」
「当たり前です!助手ですから!!」
 

ドォォォォーーーーーーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!
 
さっきよりも近い場所での爆発音・・・どうやらロックしたゲートが破壊された模様。

 
「バックアップデータ出来ました!次は敵の足止めですか!?任せて下さい!!」
敵の正体はわからなかったが、ここは研究ラボ・・・言わばホームなのだから、敵がどんな重火器を持っていようが、周りのコンピュータを駆使すれば正体不明の敵にも対抗出来ると俺は考えていた。
 
「駄目だ!!悟、お前には違う目的がある!!これを・・・このバックアップメモリーを持ってその脱出口から脱出ポッドで逃げろ!!逃げる先は地球だ!!」
「何言ってるんですか!?だったら博士も一緒に!!」
「駄目だ!!私よりもこのメモリーの方が大事だ!!人類にとって!!」

人類の運命を左右する研究がこのバックアップメモリーの中に入っているのだろうか?

 

「だったら、ここは俺が足止めしますよ!!」
「駄目だ!ここは誰の研究ラボだと思う!!敵を足止めして、痕跡も消す方法は、悟じゃむりだ!!とにかく、これを持って逃げろ!!」 
永森博士に追い出されるように脱出口に放り込まれる俺だった・・・が、何も聞かされないまま、師匠が、今まさに危険な死地へ向かおうとしている事実を見過ごせるはずもなかった。
 

「いやっ、やっぱり出来ません!!」
「やめろっ、悟!!・・・はっ離せっ!!」
俺は脱出口の取手に捕まり這い上がると、永森博士を掴んで脱出口に放り込もうとして揉み合いになる・・・ 
 

ゴォォォォォォォーーーーーーーーーンンッッッッッッッッッッっ!!!
 

一瞬、閃光が見えたかと思うと、すぐさま爆風が押し寄せて来た。
俺の体はひとたまりもなく吹き飛ばされ、壁に激突する。体の至る所の感覚がない・・・見ると右腕が逆の方向に曲がっていた。

「脱出口にいけ!!」
博士に蹴り落とされる俺・・・落ちる瞬間、声の方向を見る。そこには仁王立ちする永森博士の姿・・・爆風で研究服が燃え落ちたその下、博士の体…胸元かから下、手を除く他の全ての部分が擬態化(ロボット化)されていた。 
 
そこから先はあまりよく覚えていない。脱出ポッドまでスルスルと滑り落ちる間に少し意識を失った・・・。 


 
次に気が付いたのは、脱出ポッドの中・・・大気圏上の宇宙空間だった。遠目ではあるが目に飛び込んで来たのは、爆発、炎上している宇宙研究ラボの姿だった。

悲しみより先に全身に激痛が走る。至る箇所で骨折している。右手右足は動かない。左手は使える・・・俺は血や涙を流しながら、脱出ポッドに備えられている応急道具を使い、自分に麻酔をうち、応急処置をした。そして、脱出ポッドをそのまま大気圏に突入させ…博士の言葉通り、地球へと落ち延びた。




これが、4年前の宇宙ラボ襲撃事件・・・。

地球に着いたら、すぐに救護用ロボットがやって来て病院に搬送された。そして、8ヶ月間の入院・・・。
NAGAMORI機関襲撃事件は、世界的なニュースとなった。しかし、襲撃犯の情報やその後の事件の続報は何も発表はされなかった。襲撃事件からの生還者は十数名らしいが、そこに永森博士の名前はなく、その襲撃事件の全容も明かされる事は無かった。

大怪我をしたものの俺は生き残れた。しかし、それ以外は全て失った。
残っていたのは、永森博士から託されたこのバックアップメモリーだけだ。
しかし、脱出時の爆発でそのメモリーも大きく損傷していた。

地球に逃げ落ちて、意識が戻った直後、搬送された病院の方から脱出ポッド及び衣服に入っていた所持物について確認されたが、その中に例のバックアップメモリーも入っていた。
 
俺はとにかく病院内のコンピュータを使って、あらゆる方法を駆使し、バックアップメモリーの解体&暗号化に努めた。自分が入院している間に、もしこのメモリーを狙って襲撃されたら元も子もない。宇宙ラボ襲撃の原因がこのメモリーなのは、永森博士の言葉からして間違いはない。だから、もし盗まれても大丈夫なように、データを暗号化し、重要な部分は、俺自身の脳に記憶させた。記憶させると言ってもただ暗記しただけだったが、こういう事に関しては自信がある。
 
予想通り、入院中リアースの関連機関と称する業者が、俺の所持物を丸ごと回収に来た・・・しかし、彼らがそのメモリーを解析しても中身は空っぽだ・・・俺しかメモリーを復元する事が出来ないようにしたのだ。
 
そして退院後、まずそのメモリーの復元に取りかかる。
モリー内の情報を88に分割し、世界中のwebサーバーや情報管理サイト等にひとつずつ落とし込んでいたので、それらを拾い上げ、暗記していた文字列で一つずつ繋げていく・・・こんな事を約6ヶ月続けてようやくメモリーを復元させた。 

そして、退院後のリハビリ用にと医療関係の伝で譲ってもらった技術支援ロボットアンドロイドVYF104型00100の人工知能AI内にこの復元したメモリーを取り付けた・・・カモフラージュして隠したのだった。



そして、今に至る。



「マスター!お食事にしますか?お風呂にしますか?それとも・・・・
 
わ ・ ・ ・ た ・ ・ ・ し ! ! 」  
 
 
 
そう、そのバックアップメモリーを取り付けたロボットというのが、この目の前にいる家政婦ロボットなのだ。



なんだろうか…永森博士から託されたのがこれだったのだろうか。
それともメモリーを復元する段階で俺がミスしたのだろうか。
この目の前にいる技術支援ロボットアンドロイドVYF104型00100・・・
名前を「アリス」と読んでいるこのロボットの人口知能は・・・



「アリス、何をどう理解して、その言葉が出て来たのか説明してもらえるか!?」
「はい、疲れて帰ってきたマスターを喜ばせようと思い・・・”家に帰って掛けられたら嬉しい言葉辞典”からより選りの言葉を選んで来た次第です!マスター、喜んでくれましたか?」
 「うん、嬉しいよ!じゃあ、そんなのいいから・・・今日一日のプログラム報告をしなさい!」 
「マスターのリアクションが薄いです!もしかして喜んで頂けていませんか?」
「うん、喜びよりも不安の方が大きいかも。」
「わかりました。次からは、もっと喜んでもらえるように甘々な台詞をインストールしておきますね!」
そんなのインストールしなくていいからと突っ込みそうになったが、俺の反応を見て少しショボンとした表情を見せるアリスに追い討ちはかけれなかった。
 
「まあ、とにかく報告だ!」
「はい!」
アリスと共に奥の作業室へと向かう・・・

普通の支援ロボットに搭載されている人工知能AIは限られた反応・行動パターンをするだけで、拡張機能も搭載可能だがスペックは限られている・・・はずだったが、永森博士に託されたバックアップメモリーを取り付け後は情報集積・解析能力が24倍にアップした・・・ そして・・・

『 ち ょ っ と エ ロ く な っ た 』

という結果だろうか…??
毎日アリスの人工知能AIを解析し、プログラム報告しながら観測しているが、経過として
 
"他のアンドロイドよりも仕草や反応・言動がエッチいくなった・・・"
 
そんな症状が見られる現状だ・・・


「おい、アリス。」
「はい、マスター!!」
「なんでお前、そんな恋愛脳なの・・・!!??ストックデータの中も恋愛関係の言葉ばっかり蓄積されているんだけど・・・!!??」
「はい!もちろん、マスターのためだからです!マスターが一番好む情報を集積していくのが、支援ロボットの役目。恋愛方面…エロ方面に特化するのは当然の結果なのです!」 
ドヤ顔でエロ宣言するアリス・・・嬉しそうだ。
 「だってマスターを分析させてもらった所、感情値が一番上昇するのはエロという結果だったからです!」
「うっ・・・、いやっ、だからってバランスという点でだなぁ・・・」
いつもアリスの情報収集機能については言い合いになる。
 
 
 
「あのさ・・・アリス。」
「はい、マスター!!」
「てめぇーーーは!!もう少し容量を考えろ!!恋だの愛だの、ピンク系の言葉で容量を埋め尽くす気かーーーッ!!」 
「マスターの大好物…エロが抜けていますよ!」
「うるさいッ!!」
 
・・・・・・・・・・
 
「それに大丈夫ですマスター!!容量が全体の50%を超える場合はマスターのWEB上サーバー上にデータを送り込んでバックアップしていますから!!」 
「てめぇーーー勝手に送ってたのかーーー!! 」
「大丈夫ですマスター!!マスターのエロ画像・動画フォルダはちゃんとパスワード式にして保管してありますので、安心して下さい!!それに、お気に入りについては、SNSで他のユーザー様にも公表して、関連物を集めていますから!!」
「勝ってな事するなーーーーーッ!!!」
知らない所で、自分の性癖が晒され、それについて議論されていたと思うと・・・死にたくなる・・・


永森博士が託した全人類の希望とは・・・こんなものだったんだろうか・・・