WEB小説 拡張された世界 〜第一章24〜
・・・どれくらいの時間が経過したのだろうか・・・
・・・暗い暗い空間の中、赤みを帯びた光が差し込んでいた・・・
焦げ臭い臭いとジリジリといった電気音が低くなり響いている。
・・・ 俺 は 生 き て た の か ・・・
全身鞭打ち状態で体を動かす事はできないが、外傷もほとんどないと自覚できた。
あの爆発の中…目の前のスパークとともに全身が上下に揺さぶられ…記憶を失った。
それでも、エムズ(対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03)のコクピット部分は無事であり、奇跡的に助かったという事だった。
「大丈夫ですか?マスター!?」
目の前に座るアリスが、声を掛けてくる。
「ああ、おかげさまで・・・てっ!!お前っ!!??」
「申し訳ありません。ミサイルの72%はハッキング出来たのですが、残りは間に合いませんでした。ミサイル破片の先端部がコクピットの前板を貫通してきましたが、なんとか守りきりました。」
あの瞬間・・・アリスは俺に抱きつくように反転して、身を挺して助けてくれ・・・その前にはミサイルをハッキングし、軌道も逸らし爆発も間逃れた・・・今、こうして生きているのは、こいつ・・・アリスがとんでもない処理で俺を危険から遠ざけようとしてくれたということだ・・・
「おい・・・ちょっとまってくれよ・・・」
俺はアリスの背中部分に手を回す・・・破片はアリスの背中にめり込み・・・というか貫通していないのが奇跡なほどの状態だった。
「アリス。なんでお前はそうやってしゃべる事が出来るんだ。お前の損傷率・・・限界だろ!!」
「私のコアは機体損傷率99.7%まで稼働出来ますので、ご安心下さい・・・マスター!」
・・・なぜ、こいつ…アリスはわざわざ俺の膝上に乗りかかってきたのか・・・その意味がようやくわかった。アリスは初めから最悪のケースを想定して、その対策を立てていたという事だ。
「馬鹿野郎!!お前の損傷は、俺の損傷でもあるんだから、もっと自分を労って行動するように!」
「はい、マスター!!」
「アリス・・・」
「なんですか、マスター?」
「ありがとう!お前がいなかったら今回は乗り切れなかった。お前がいないと、俺は何も出来ないよ!」
「マスター!!うれしいです!!マスターに飛びつきたいのですが、今動けない状況です・・・マスター、私を引っこ抜いてもらっていいですか?」
「いやいやいやいや・・・今のこの体勢じゃ無理だ!!俺も鞭打ち状態で動けないし・・・とりあえず、アリス・・・お前の主電源を落とせ・・・暴発したらどうする!?」
「はい・・・マスター・・・でも電源落としたら、次マスターとしゃべれるまでどれくらいかかりますか?すぐにオンしてくれますか?」
「いやっ、とりあえずお前の修理しないといけない!全身フルチェンジしないといけないレベルだけど、そんな事はしない!!絶対にお前を直してやるからな!!」
「はい、ありがとうございます。マスター!!じゃあ、よろしくお願いします。」
そう言いながら、アリスは主電源部分のある右耳アンテナ部分のロックを解除してくれ・・・パカッとアンテナ部分を開いて主電源を落とす。
危険領域の為、アリスの全身は至る箇所で発光していたが、その発光が止まる・・・
「・・・マスター・・・早く・・・会いたいです・・・」
そう言い残して、アリスの主電源は落ちた・・・後は、このコクピットから俺とアリスを救出してもらうために救護隊を待つだけだった・・・。