8mgの小説ブログ

WEB小説(ちょっと挿絵)のブログです。ブログ形式だと順番的に少し読みにくいかもですが、一章ごとに完成したら、別サイトにアップしたいと考えています。※このサイトはリンクフリーです。

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WEB小説『画面の向こうのプロレスラー』をメインで更新中!ちょっとアレな性格の女子レスラーの成長物語ですm(_ _)m

WEB小説 拡張された世界 〜第一章01〜

「ピーンポーン」というチャイムが響く。

 「はーい。」と扉を開けて出て来たのは、少しやせた感じの眼鏡を掛けたおばさんだ。(俺もおっさんだけど・・・)
 
「あっ、修理屋さん。待ってたザマス。早く入ってザマス!」
 そう言いながら、おばさまは俺を家の中に招き入れる。”ザ マ ス "という言葉の語尾が・・・まあなんだろうか・・・キャラが強いというか、のっけからパンチが効き過ぎだ。


俺、月ヶ瀬悟は修理屋を営んでいる。

そして今日は、仕事の依頼でこの少し大きな家にやってきた。 この家に住まうのは上流階級の「骨村一族」そして仕事の依頼主・・・私を現場へと案内するのが骨村婦人だ。

「ここザマス!」そう言って骨村婦人に案内されたのは、リビングルームに設置されていた骨村家の "ホームコネクション" だった。

ホームコネクションというのは、人間居住区の住居に1つは設置されている総合管理コンピュータシステムの事だ。このホームコネクションがある事で、住居における電気やガス、ネットワークサーバー環境など暮しの中で必要な情報環境を統括してモニタリング出来る住居の核的存在だ。

そんな骨村家のホームコネクション前を見ると・・・液晶モニタはバキバキに割れ、悲惨な状態になっていた。見た瞬間に『アウトーーー!!』と呼べる代物だった・・・

「これはちょっと・・・重傷かもしれませんね。」
「そうなのザマス!さっきから家中のあちこちでエラーやノーとか表示が出てお手上げ状態ザマス!」

家の機能の全てを一カ所に集約させているがホームコネクションシステムであるので、これが転けると全てが転けてしまう・・・一極化の危うい点だ。
 
「ママ〜!!水道が出ないー!!」 
そう言いながら、一人の男の子とその友達が骨村婦人の元へ掛け寄って来る。


「まあ、ツネちゃま、2階もザマス!!」

「ママ、ごめんなさい〜!!」
骨村婦人の息子さんと思われる"ツネちゃま"はいきなり泣き出した。


 「ツネちゃま、もう大丈夫よ!修理屋さんが来てくれたから!!」
「ママ〜!!」

骨村婦人の説明によると、ホームコネクション破壊の原因はこのツネちゃまが引き起こした事らしい。

「あのぅ・・・ホームコネクションの修理に関しては、私みたいな修理屋より、リアース直営の住居管理会社に依頼した方がよいのではないでしょうか?」 

この世界を統治・管理するマスターコンピュータの集合体『リアース』

そのリアース直轄型の企業は、世界中の様々な分野で何百社も存在し、料金的にも信頼性的にも申し分ないサービスを提供してくれている。


「それは、ダメザマス!!リアース系の会社に依頼した場合、事故原因の説明義務が発生してくるからザマス!!」

 

「そう言う事でしたか・・・。」 

確かにホームコネクションの修理など、住居や公共施設における重要備品の破壊・損傷の度合いによっては、その原因を追求されるケースがある。

それはリアースが個人情報を管理するために必要な参考資料とするためだ。例えば、住居の修理を何回も直営会社に依頼していると、その居住者は破壊的志向が強い人間だと判断される・・・みたいな話を聞いた事がある。 


そして、今回の事故は骨村婦人の一人息子、ツネちゃまが友達と遊んでいた際に誤って起こした不注意事故なので、その理由説明の責任をツネちゃまが問われる事になると思う。

「ツネちゃまは、来年お受験を控えているザマス!もし今回の事がリアースの判断基準にでもなったらお受験に支障をきたすザマス!そんなこと、絶対にあってはならない事、だからあなた修理屋さんを呼んだのザマス!!」
このように、人間はリアースによって管理されているとは言え、どうしても知られたくない事もある・・・そんな時の為に、俺のような隙間産業が存在しているのだ。

ちなみに、ホームコネクションにエラーが発生した場合、24時間エラー状態が続くと管理会社に通知が入るシステムとなっており、時間も迫られているという事だ。


「ごめん!ツネオーーー!!ボクも悪いんだーーー!!」
と、ツネちゃまの隣の友達が責任を感じてか、下を向いて申し訳なさそうに叫ぶ。 

 

「そうだ、ボクは全然悪くないもん。全部ノビオのせいだーーー!!

友達に責任を擦り付けようとするツネちゃまの態度は、餓鬼とはいえ黙って見逃してはおけない・・・

 

「・・・というのは嘘!悪いな、ノビオ!!ここはボクの家だ!ボクとママと修理屋さん・・・この事故は三人までしか関われないんだよ!!」

「えぇーーーーっっ!!」

いつの間にか今回の事故案件に、巻き込まれていた俺だったが・・・友達を守ろうとして敢えて突き放すツネちゃまの男気に思わず目頭が熱くなる。年は取りたくないものだ。

「坊主!!震えたよ!!友達をかばおうというその心意気に免じて、ここは任せろ!!」 

「ありがとう、修理屋さん!!」

啖呵を切って、俺はホームコネクションを颯爽と解体する・・・ 

 

「大丈夫!!モニターは完全にいかれているけど、マスター端子は健在だし、配線関係ももう一度並べ直せばよいだけの事・・・」
作業を一気に進める俺に、骨村婦人とツネちゃま、その友達の表情もだんだんと明るくなってきているようだ。

「よしっ!!出来上がり!!」

「とっても早いザマス!!ホントに助かったザマス!!」
「ありがとう修理屋さんーーー!!」

骨村家ホームコネクションを1時間程で修理し、耐震強度を上げる素材コーティングを施したり、機能のハブ化(予備ホームコネクションを二階にも設置)もついでに設定した事で、かなり喜んでもらえた。


「今度からは遊ぶ時は気をつけろよ!受験頑張れよ!!」


「うん、ありがとう!!」


「何から何までありがとうございましたザマス!!」


・・・こうして、今日の仕事「骨村家のホームコネクション修理」は終了した。

私は携帯端末を開いて、CASHの項目の数字が増えている事を確認する。これでまた色々な部品が買えそうだ。

仕事を終え、家に帰宅中の私。時刻はもう19時・・・その時端末や都市内放送からアナウンスが流れる。

「本日、7月7日はスターシャワーの日です。これよりスターシャワーをお楽しみ下さい・・・」

行き交う人々は足を止めて、空を見上げる・・・アナウンスが終わった後、1つの流れ星が落ちる。続いて間をおかず、無数の流れ星が降り注ぎはじめたのだ。

その圧巻のビューに、人々は圧倒される。この世界全てがプラネタリウムに変わった瞬間だ。こうやって目に映る世界を華やかなものに演出するのが、拡張世界(オーグリアリティ)だ。世界はプログラムによって毎日様々な演出が催され、人の心を潤し、満たす。眼鏡を外すと灰色の無機質な世界が広がっているだけだが、この世界の人の目には美しい拡張世界が広がっている。灰色の真実よりも人の心を満たす虚構の現実・・・拡張世界(オーグリアリティ)を俺は否定はしない。 




幻想的なスターダストシャワーの中を歩きながら自宅に戻る。

 

 

・・・玄関扉を開けて・・・

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「おかえりなさい!マスター!」



「ただいま!」



帰宅の挨拶の言葉を掛ける・・・一人の少女・・・少女型のロボットに・・・ 



俺は一人暮らしだったが、正確に言うと、少女型ロボットと一緒に暮らしている。


彼女の名前は『アリス』・・・『月ヶ瀬アリス』VYF104型00100アシスト(介助兼家政婦)ロボットだ。


俺の恩師、永森博士の夢がこのアリスというロボットに託されていたのだ。