WEB小説 拡張された世界 〜第一章20〜
17式が持つ4門のバルカン砲のうち、3門がこっちに向かって火を噴く。
ブォァァァァーーーーーーーーーー!!
しかし、エムズはこれまでにないような巧みな動きで、その後集中砲火を寸前の所でかわし続ける。
「すごいな!バルカンの軌道を予測表示してくれるのか!?」
モニターには、次にどのような攻撃が来るのかを秒単位で詳細に線表示してくれており、機体をどの位置に動かすかも矢印で表示してくれている・・・
もう完全に17式は丸裸状態だ。
「17式の行動パターンはほぼ100パーセントに近い程把握しております!ですが、向こうも自立AIを搭載した兵器ですので、そろそろ行動が読まれていると把握する頃でしょうか?」
「どういうことだ?」
「こっちの攻撃が読まれていると認識して、行動パターンを変えて来るかと思われます。」
アリスの言う通り17式は、誘導機能を搭載していない近距離迎撃ミサイルとバルカン砲を織り交ぜながら攻撃して来る・・・
そのミサイルの一発が、エムズの右後ろ足に命中する。
ダァァァァァァォーーーンッッ!!
「ほらね!」
「ほらねじゃねーよ!!??どうすんだアリス!?機体バランス・・・ってアレ?」
「大丈夫です。残りの3本の足だけでも充分に機体は支えられます!それに相手がパターンを変えてきたのなら、今度はさらにその先を読むだけです!」
「頼もしいな、お前は!じゃあ一気に近づくぞ!右腕だけは完全死守!」
「はい、マスター!」
エムズの右腕のショットガンは残弾1・・・最後の一発は有効的に使わせてもらう。
キュ、イイィィィィィィーーーィィィーーーン!
エムズの脚部は、それぞれの足を折りたためたり、位置を360°調整する事が出来る。着弾して破壊された脚を切り離し、前足二本、後ろ足一本という、三角形の位置取りで機体を支えながら、17式に向かって突撃する・・・
「よし、ジャンプだ!!」
17式にいよいよ距離50mまで詰めた手前、エムズを二足モードに変形させ、残量の少ないブースターを全開にして地上から大きくジャンプさせた・・・
「最後の一発はこうやって使うんだよ!!」
17式のバルカン砲が、ジャンプしたエムズを狙おうと砲門を動かせた瞬間、それよりも早く、エムズの右腕ショットガン・・・最後の一発を使用した。
バァァァシュゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!
17式の頭上に広がる大きな爆発と煙・・・エムズの右腕を暴発させたのだ。
暴発させるため、右腕ショットガンの銃口に詰めたのは、さっきの作戦で使った煙幕だ。
・・・つまり、狙いは17式本体ではなく、17式の対象補足機能をかく乱させる事にあったのだ。
シュゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!
辺り一面覆い隠す程の煙幕が立ち込めるが、17式や付随列車は走行しているので、立ち込めている煙幕から抜けるのも、さほど時間が掛からなかった・・・
・・・煙から抜けた17式とその前の付随車両・・・
・・・17式のバルカン砲が、360°クルクルと回転しながら、エムズの機体をサーチしている・・・
「おーい、ここだぞ!!」
「こっ、コラ!マスター!見つかっちゃいますよ!」
「ウンっ!!でも、大丈夫!もう既にチェックメイトだからな!!」
「そうですね!それじゃあ、解除しますか?」
「ああ・・・そうしてくれ!」
「はい!!ステルスコーティングを解除します!!」
・・・エムズのステルスコーティングが解除され、そのボロボロになった機体が現れてくる・・・
・・・その現れた場所は、17式の前方、付随車両・・・上半分が吹き飛ばされ野ざらしになった車両土台の上に乗りかかるような状態でエムズは姿を現わす。爆音と煙幕、そしてステルスコーティングの三段構えで17式のサーチ機能を回避した。
そして、既にエムズのケーブルと付随車両の土台とを繋いでいる状態・・・
俺達の作戦・・・ブライアさんと考えた作戦の狙いは、17式ではなく、その前方の付随車両だった。前方車両の土台とエムズとをケーブル回線で繋いで、付随車両土台の上に作られている『空間拡張』に対して干渉プログラムを投下する事・・・これが作戦の最重要項目だった・・・
WEB小説 拡張された世界 〜第一章19〜
「俺達の目には、黒いカーテンが降ろされたように見えたんだ。」
オーグリアリティ・・・機械や人間の目に見える景色を拡張させて覆う世界。それによって、本来目に見えるはずだった世界を黒で覆ってしまったのだ。
「それからカーテンの向こう側で何が行われたかは全くわからない。俺達オーグアーミーは封鎖の命令を遂行するだけだった。ただ、カーテンが開けられた時、その向こう側には、人も建物も何もかも無くなっていたんだ。」
「・・・そうなんですか。」
「俺はゲート封鎖の任についていた。その時一人のオーグセキュリティ捜査官がゲートの向こう側に行かせてくれと泣き付いて来たんだ。」
「それって・・・?」
「若い女性捜査官で、今回の暴動鎮圧の任についていた彼女は、自分達に任せてほしい、まだ待ってくれと嘆願しながら、他の隊員に取り押さえながらも訴えてきた。」
・・・その女性捜査官というのが・・・
「俺はただ事の成り行きを見守る事しか出来なかった。全てが終わって、放り出されてゲートの前で放心状態のまま座り込む彼女に俺は声を掛けた。彼女は、この事態を引き起こしたのは、自分のせいだってずっと泣いていた・・・彼女の涙が忘れられなくて、俺はこうして今、その時の彼女の下で働いているって訳!」
22エリア暴動事件・・・ 当時俺は、空から落ちてきて、病院でリハビリをしている時だった。
ニュースで連日報道されていたが、突然シャットアウトされ、報道規制が敷かれた。
その一連の事件の担当捜査官代表が、当時キャリアを歩む予定であった笠原晶子だった事を俺は初めて知ることになる。
・・・・・・・・・・・・
「なぁ、晶子・・・ここは俺達に任せてくれないか!?」
『何を言ってるの!?』
「今はブライアさんや俺・・・ここにアリスだっている!」
『・・・・・・』
「手を伸ばせば届くのに、それを見過ごすなんて、俺は嫌やだ!」
『!!!???』
「晶子・・・名義上、今の俺の立場は容疑者だ!容疑者が暴れてさらに罪を重ねていくその勇姿を見ててくれ!エムズ一号機はこれより、単独行動に出る!」
『 悟 ! ! 』
・・・俺は通信を遮断した・・・もう後戻りは出来ない・・・するつもりもない・・・
「アリス・・・これで思い残すこともなく、最終決戦に挑める!」
「はい、マスター!」
「とはいえ・・・最終決戦っつっても、今日の仕事の最後の仕上げって事だからな!ミサイルや砲弾は飛んで来るけど、ちょちょ〜っと行って、ちょちょ〜っと解体してくるだけだからな!」
「朝飯前です、マスター!」
「ははっ!アリス・・・お前がいると負ける気がしないよ!」
「当たり前です!なんて言ったって、私のコアを作ったのは、マスターなんですから!」
膝の上に座りながら、チラチラ後ろを気にしながら会話にこたえてくれるアリスの姿は、なんとも幼気な感じがして愛らしく思う。
以前、俺が後ろにいる場合に会話する際、アリスは首を180度回転させて話しかけてきた事があったが、あまりにシュールな姿だったので、もうやめろと命令していた事を思い出す。
・・・・・・・・・・
「対象まで距離2600m・・・ロックオンされました。」
「よしっ!加速する!」
「誘導弾、発射されました。」
「ハッキング開始!」
「はい、マスター!」
・・・第17式機動装甲列車、通称17式・・・高火力の列車型機動兵器・・・なんと言っても特徴は主砲のリバイヤキァノンであったが、その他にも16連ミサイルポッドやバルカン砲など、武器構成のスペックが高い。
そして、ミサイルにも種類があり、プログラム誘導機能の中距離ミサイル(誘導弾)が、狙い目であると分析していた。
つまりは、誘導弾が17式を離れた時点で、ハッキングして目標を変更させる事が可能なのだ。
「ハッキング完了しました!目標は17式、リバイヤキャノン!」
発射されたミサイルが180度反転して、今度は17式を目標に向かう・・・相手の武器を使って相手に攻撃する・・・なんとも効率的な戦い方だ。
ダァァァァァァーーーーーンッッ!!!
しかし、ハッキングした誘導弾が17式に着弾する前に、バルカン砲によって迎撃されてしまう。やはり17式は防衛能力に特化している。
だが、迎撃されるのは百も承知だった。
「よそ見すんなよ!17式!!」
一気に加速させ17式に近付いたエムズの右腕から発射される弾道が、リバイヤキャノンの砲台の先端を掠めた。
バァァーーーーーンッッ!!
17式本体部分でなく、リバイヤキャノン砲台の先を狙ったショットガンが命令した。
「命中しました!これで、リバイヤキャノンは使用不能になりました!」
「よしっ!一旦、距離を取る。気付かれてないか!?」
「え、えっと・・・今、車輪と地面が擦れる跡で補足されました!」
「回避ーーー!!」
ダァァァァァァーーーーーンッッ!!
ギリギリの所で回避して距離を引き離す・・・まず、第一の目標であるリバイヤキャノンの機能停止は達成した。
ここまで、17式に接近できたのはもちろん理由ある。
「もう、意味がないか・・・よしっ、アリス・・・ステルスコーティングを解除!」
「はい、マスター!」
・・・ステルスコーティング・・・拡張世界(オーグリアリティ)を使って物体を透明化する機能・・・これは、先程まで使っていた17式の専売特許ではない。
最後のアタックに備え、急造ではあったがアリスと俺でエムズにステルスコーティング機能を備え付けたのだ。
「技術者を、舐めるなよ!!」
相手が機械である以上、俺は元研究所職員、電脳工学の技術者としての戦い方が出来る。
「リバイヤキャノンは使用不可・・・ミサイルはハッキングされるので撃てない・・・さぁ・・・どうしますか!?中富博士・・・!?」
俺は、17式のコアに移植された中富博士の電脳に語る。
ブライアさんの話によると、中富博士の電脳の機能は停止されているそうだったが、中富博士が歩んだ記憶と希望が、17式のコアにフィードバックされているのではないかという事だった。だからこうして、暴走事件を引き起こしている。
「ここは、もうサシで勝負するしかないですよね!!」
「マスター、誰に向けて話してるんですか?」
「17式・・・中富博士にだよ!俺の願望をね!」
「でも、マスターのお望み通りになりそうですよ。ミサイルのロックはキャンセルされています。ですが、バックパックが破壊されていますので、この機体もそろそろ限界が近付いています。」
「そうか・・・じゃあ、次が最後ってわけだな。」
「はい、そう言う事です。」
「それじゃあ。行くか!!ラストアタックに!!」
「はいっ!!マスター!!」
俺は、エムズを加速させる・・・
WEB小説 拡張された世界 〜第一章18〜
対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)・・・損傷率74%の現状だけあって流石に機体の至る部分で、不具合が生じている。
「その不具合を踏まえた上でシステム構築してますから、心配御無用です!」
だが、アリスからは頼もしい返事が返ってくる。
「マスター、左右に走らせてみて下さい!」
アリスの指示通りに機体を左右に旋回させながら移動してみる。
「すげぇぇぇーーッ!なんだろう・・・ぬるぬる動く!」
驚く事に先程までとは、全く別の機体反応を見せてくれる・・・
「次のモーションに移る迄の待機時間を、限りなくゼロに近付ける為、予め動きをフライングさせています!」
「ちょっと待て!それって、俺が次にどう動かすか予測してるのか?」
「はい、先程の戦闘時に収集したマスターの行動操作パターンを基に予測演算させています。」
・・・つまりは、予測微行動システム・・・先回りした行動を機体に自動的にさせている訳か・・・
「それに、なんだ!この画面は!?」
モニターには、画面を覆い隠してしまうような文字情報が溢れている・・・先程までとは全く違う、モニターに映る対象物の様々な情報をリアルタイムで書き出すシステムだとアリスが説明してくれた。
「何処からこんな情報を!?」
「レールライン本社、周辺の住基管理システム、オーグセキュリティ・・・などに現在ハッキングをかけて、あらゆる情報をこのエムズに集積しています!」
何か大変危険な事をしているような気がするが、状況が状況なだけに許してくれるはず・・・だと思う・・・
「・・・それにですね!マスターの呼吸や息づかいに合わせた操作性能、マスターの体調、筋肉の硬直具合、柔軟度に合わせた機体反応をチューニングしています!」
「・・・アッ、アリス・・・お前・・・」
何から何まで至れり尽くせりのシステムをアリスは作ってくれたようだが・・・
「でも、呼吸や息づかいって?何処でそんな計測してるんだ!?」
「はい、マスターの心拍を計測する為に、こうして密着してるんですよ!いくら密着してるからと言って、エロい事考えないで下さいね!」
「てっ!・・・てめぇ・・・じゃあ、俺の体調って言うけど、そんなのわかんのか!?」
「さっき、ヘッドギア付けてたじゃないですか〜!?計測させてもらいました!!」
アリスには自立AIを搭載させている。
加えて、俺の恩師、永森博士から託されたバックアップメモリーも取り付けているが、それによる演算処理能力の強化だけが、そのメモリーの効果ではなく、何かとてつもない可能性を秘めているように思えた。
「お前が凄いってことは・・・よ〜くわかったよ!わかったけど、お前・・・管理者の俺が知らない所で、ちょくちょくチューンナップしてるよね・・・!?」
「はてっ・・・?なんの事でしょうか!?ヨクワカリマセン・・・」
と、バレバレの嘘をつくアリスをポンと小突く。まあ、こいつのこの向上心が助けになる場合もあるが、永森博士から託された研究が、このアリスなのだから、俺はもっと向上してアリスを管理する・・・見守っていく使命がある。
「アリス・・・こんなボロボロになった機体でも、俺はお前といると・・・負ける気がしないんだ。」
「はい、私が必ずマスターを勝たせてみせます!!その為の私ですから!!」
「ああっ!生きて帰って、祝杯をあげようぜ!」
「はい、マスター!!」
暴走する列車・・・17式に追いつく為にエムズを加速させる。機体の右腕は吹き飛ばされ応急処置だけ施したガタガタの機体だったが、スピードは落ちていない。
「ところで、マスター!?そろそろ出られてはどうでしょうか?」
「・・・あぁ。そうだな・・・」
出るとは、先程から何回も何回も通信が入っている事・・・ガン無視を決め込んでいたが、通信先の相手はわかっている・・・
「こちら、エムズ一号機!!」
『 悟 ! ! ! 』
通信に出た途端・・・オーグセキュリティE-03部課長、俺の大学時代の友人、笠原晶子から間髪入れずに怒られる・・・先程のデジャブのようだった。
「やっ、やぁ・・・久しぶり!」
『やぁじゃない!!悟、あなたがやろうとしている事、今すぐやめなさい!!』
彼女にはガン無視していたので無理もないが、かなり御立腹の様子・・・
「ブライアさんは無事だから、心配しないでくれ!」
『知ってる!!言いたいのは、民間人のあなたが勝手にオーグセキュリティの所有機体を操作して動かせている事・・・自分が何をしてるのか、わかってるの!?』
「あぁ、わかってる!!晶子、お前を助けようとしてるんだ!17式・・・お前らとドンパチやったら自爆するぞ!」
『ブライアから聞いたわ。今、私もそちらへ向かってる。だから、余計な事しないで!』
「いいや、それは出来ない!君ら03部は電脳系事件を主に扱う部署みたいだけど、元研究員の俺から言わせれば、まだまだ素人だ。対機械系スキルは、俺やこいつアリスの足元にも及ばないぞ!」
『何をするつもりなの?』
「ええっと・・・プロの犯行・・・」
『悟、、、いい加減にしないと・・・」
「いやいや、自爆もさせず、被害も最小限に抑えて事件を解決してみせる!俺とアリスとでな!」
『駄目!!悟・・・あなたはあくまで民間人でしょ!!そんなの許されない!!』
「許してももらおうとは思わない・・・でもな、ブライアさんから頼まれたんだ。お前の力になってくれって!!」
・・・・・・・・・・・・・
・・・17式への1回目のアタック前・・・
湖の真ん中で待ち構えていた時・・・
「ブライアさんは何故、オーグセキュリティに入ったんですか!?」
ブライアさんの経歴について以前話をした事もあったが、深くは聞いた事がなかった。
「確か、オーグセキュリティに来る前は、施設警備会社でしたよね?」
「そうだ!まぁ、その会社は今のオーグセキュリティに入る準備段階みたいなものだったかな。」
「そうでしたか・・・じゃあその前は?」
「オーグアーミー地球方面軍に所属していたんだ。」
・・・オーグアーミーとは、この世界の軍隊機関のような存在だ。治安維持、災害処理、そして軍事行動といったオーグセキュリティとはまた違う役割を担う機関だった。しかし、所属隊員の95%が機械、ロボットであり、残り5%が擬態化した人間に構成されていたが、その5%の中にブライアさんが含まれていたとの事だ。
「オーグアーミーでは、俺達のような人間は宇宙に上がらせてもらえなかった。毎日ただ宇宙から送られてくるエアコンや空気調整機の修理ばかりしていたよ。あの時までは・・・」
「あの時って・・・ッ!!エリア22暴動事件の事ですか?」
「そうだ。」
・・・エリア22暴動事件・・・
今から3年前、地球上、リアース 22-16から19エリアの広範囲の地域で起きた大暴動事件である。
エリア22は元々リアースによる地球の統治管理に反抗的な地域であったが、ある時同時多発テロが起こり、それを発端に他の地域からも反リアース的な組織が集まってくるようになった。そして、その流れは一気に地域住民の蜂起にも繋がり、リアース統治以降最大の暴動事件が発生したのである。
「あの時、俺達地球方面軍は16から19迄のエリアを完全封鎖するようにと命令を受け、それに従った。何百キロに及ぶバリケードがはられ、中からも外からも虫一匹も通すなという命令だった。」
「その後、何があったんですか?」
「宇宙にから、黒いカーテンが落ちて来たんだ。」
・・・ブライアさんの説明によると、その言葉通り・・・バリケードの内側に向けて宇宙から黒いカーテンのような物体が降ろされたそうだ。
WEB小説 拡張された世界 〜第一章17〜
「アリス!ワイヤーを引いてブライアさんを回収!!」
「はい!」
エムズとブライアさんを繋いでいたワイヤーを巻き上げ、ブライアさんを車両から引き落とす・・・転げるように車両の外に放り出されたブライアさんの身体はそのまま湖に向けて引きずられていく・・・
「ブライアさんの所へ急ぐぞ!」
「はい、マスター!」
それから17式のレーダーに捕捉されないよう距離を調整しながらエムズを動かし、ブライアさんを回収する。
・・・ 湖の畔で横たわったブライアさんを介抱する為、俺とアリスはエムズを降りた。
「ブライアさん!」
「よぉ・・・修理屋・・・」
引きつった表情で挨拶するブライアさんだか、喋っているのが奇跡な程、その状態が酷かった。彼の左胸より下がごっそり無くなっていたからだ。
「修理屋・・・擬態の体はいいぞ・・・こんな状態でも、電脳さえやられてなければまだ生きている・・・」
「わかりました!わかりましたから、考えておきます!!支局に連絡して救護班も呼んでます。到着するまでの間応急処置しますので、じっとしてて下さい!」
擬態化された人間の体は、表面は人の皮膚細胞で覆われているものの、内部のほとんどは機械で構成されている。
内部機器の破片やケーブルの切断等で無残な状態になっているが、外せる所は外し、繋げる所は繋ぐ・・・これをするだけでも、暴発の恐れや体内電流の不全を解消する事が出来る。
俺とアリスは、エムズのコクピットに乗せてあった処置道具を使い応急処置に取り掛かる。
「修理屋・・・作業しながらでいいから、聞いてくれ・・・」
「わかりました!」
「・・・さっきのあの車内の老夫婦は、中富博士と彼の奥さんだ・・・後、17式の制御コンピュータには、中富博士の電脳が移植されている・・・」
「えっ!!!???」
「限定拡張された車両内に入ってみたらわかった・・・中富博士の意思が伝わってきたように思う・・・」
ブライアさんが言うように、限定拡張された空間に実際に入る事により、その演出元の意識や思いをごく僅かに共有出来る事がある。
ブライアさんの電脳と17式に搭載された中富博士の電脳とが限定拡張を通して共鳴したと考えられる。
「後・・・中富博士はあの時、奥さんと何か話をしていただろう・・・あれは、この旅が終われば、一緒に行こうって言っていた・・・」
「行くって・・・何処へですか!?」
「おそらく・・・列車の暴走が止まったら・・・17式は自爆するつもりだ・・・」
「えぇぇ!!!!!」
ブライアさんは車両内に入って、中富博士の色々な意思を読み取ったに違いない。その中から、今必要な事を掻い摘んで話してくれる。
「・・・だから、修理屋・・・頼みがある・・・笠原課長達を守ってくれ・・・」
「もちろんです!」
「今から・・・作戦を伝える・・・」
・・・・・・・・・・・・・
・・・ブライアさんに一通りの応急処置を施した。
「ブライアさん、待っていて下さい!必ず勝利の報告を届けてみせます!」
「・・・あぁ・・・でも、こんなこと民間人にやらせるわけにはいかないんだけどな・・・任せた・・・」
ブライアさんはそのまま目を閉じて休む・・・擬態とはいえ、体への外傷は電脳に大きな負荷を与えていたのにもかかわらず、気力でここまで作戦を伝えてくれた・・・そして、俺に託してくれたのだから、ここは何としてもやり切らなければならない。
「アリス!!」
「はい、マスター!」
「今から、エムズに乗り込んで、もう一度17式にアタックを仕掛けるんだけど、勝利確率を計算してもらえるか?」
「はい!ズバリ4%です!」
「ヘっへ・・・やるじゃん!ゼロじゃないんだな!?」
「はい、現在の機体損傷率や装備状況、17式の武器スペックから割り出した確率です!」
・・・4/100とは、ちょっとどころの厳しさではないが、17式が自爆しようとしている事を考えると、この場を引くなど選択肢にはない。
「マスター!!」
「なんだ、アリス!?」
「確かに4%と言いましたが、この確率を100%まで上げてみせましょうか?」
「はぁっ!?」
一瞬、アリスが何を言ってるのかわからなかった。
「だから!私がマスターに勝利をもたらせましょうかと言う事です!」
「お前・・・すごい自信だなぁ・・・?」
「私はマスターのアシストロボットです!だからマスターを勝利へ導くのは当然の事です!」
ロボットだからかもしれないが、アリスはなんの躊躇いもなく勝利を確信したような口調で俺に問いかける。そして、手を差し伸べてくる・・・そんな光景は、天使に手を引かれているのか、死神に魂を吸われているのかのどちらかわからなかった・・・どちらにしても死ぬという事なのか・・・
「アリス、何の根拠もないけど、お前の提案を受け入れるよ!!俺を勝利へ導いてくれ!!」
「はいっ!マスター!」
・・・そして、俺とアリスはエムズに乗り込んだ。向かうは第17式機動装甲列車だ。
「で、具体的にどうするつもりなんだ!?」
「はい、先程の戦闘で、マスターのパイロットとしての基本情報はラーニングしました!機体を動かす時のクセも含めてです。」
「うん・・・それで・・・?」
「その情報を元に機体のシステム系統を一新します!このエムズをマスターと私だけの機体にするんです!」
それからアリスの説明によると、俺のパイロットとしての腕前、クセ、スキルに合わせた操作機能にシステムを変換し、最大限の効率、効果を発揮する為のシステムナビゲートを構築すると共に、エネミー解析による予測演算を行う事だった。今ひとつよくわからなかったが、試してみればわかるだろう。
「マスター、失礼します・・・」
その後、突然アリスがコクピットに座る俺の膝の上に座ってきた。
「おい・・・アリス・・・何やってんの?」
「マスターの目線に一番近い場所から情報を観測する為です!これだけでも、性能はグンと上がるんですよ!」
「ま、まぁ、わからないでもないけど・・・お前の頭が邪魔で見え辛いんですけど・・・!?」
「えっ?ちょっと待って下さい!」
「おいっ!ゴソゴソと動くなっ!おいっ!」
「ひぃゃっ!マスターのエッチ!!」
「てめぇ・・言わせておけば!!!」
・・・今から死地へ向かおうというのに、こんな所でイチャイチャしている場合ではない・・・
「これでいいだろ!?」
「はいっ!」
「じゃあ、行くか!!」
「はい、マスター!」
・・・向かうは第17式機動装甲列車・・・俺達はエムズは発進させる・・・
WEB小説 拡張された世界 〜第一章16〜
「なんだ・・・これは・・・???」
・・・夕暮れ時・・・日が水平線に沈もうとする景色を背に、穏やかな風景が車両内に広がっていた・・・
「修理屋、これはどういう事だ?」
「はい、おそらく車両内限定で空間が拡張されています。」
拡張世界(オーグリアリティ)は人間の脳内ナノチップを通して、この世界を覆っており、俺みたいな一部の例外を除いて、どの場所でも視界には拡張世界を広がっている。
その拡張世界の応用として、部分的に拡張世界を操作する技術が存在する。『空間拡張』と呼ばれるもので、17式のステルスコーティングもその種類の一つだ。他には、コンサートなどのイベントで空間拡張を使って様々な演出をする例もある。
「車両の土台が舞台装置になって、その景色を映していると思われます。」
「その理由がイマイチよくわからないな。」
なぜ、内側でこんな風景を演出しながら、外側では列車を暴走させているのか・・・
「でも、ほらっ、あそこを見てくれ!」
「老夫婦・・・?」
車両内・・・ブライアさんが現在いる位置から奥の優先座席に、仲睦まじく寄り添う老夫婦の姿がそこにはあった。
その時だった・・・
「マスター、ブライアさん!本庁から入電が入りました。」
「切り替えてくれ、嬢ちゃん!」
・・・オーグセキュリティE本庁から共同通信が入る・・・
『対象、第17式機動装甲列車の所有者が判明・・・所有者は中富康之、72歳没、ベイエリア倉庫に保管されていた車両が突然動き出したとの事。その後、対象はレールライン車両倉庫で付随車両に連結した後、暴走を始め現在に至る。所有者の中富康之氏は、かつてレールライン開発技術研究所所長を務めており、退所後は民間企業の技術部に所属し、三ヶ月前に電脳結核により死亡。顔写真を転送する。』
・・・転送されてきた写真を見ると、やはりそうだった。
「あそこの老夫婦のおじいさん・・・中富博士だな!」
「そうですね!」
亡くなったはずの中富博士が、空間拡張によってそこに存在している。おそらくは、中富博士の意思が、車両内の景色に関係しているのだろう。
「アリス、中富博士の周辺情報について調べてくれ!」
「はい、マスター!」
・・・本庁からの続報を待つよりも、アリスに調べさせた方が早い。
「修理屋、中富博士の隣の御婦人はおそらく博士の奥さんだろう。さっきからあの夫婦・・・ずっと話をしてるようだから、一度接触を試みるよ!」
「お気を付けて!」
「ああ!」
今回の事件、暴走する列車の原因が、中富博士である事は間違いない。その原因を突き止めることが出来れば、列車の暴走も止められると思っていた。
・・・モニターには、ブライアさんが老夫婦にどんどん近付いていく様子が映し出される。
「んっ?どういう事だ!?」
ブライアさんが老夫婦の話に何か気付いたその時だった・・・
「 伏 せ て く だ さ い ! ! 」
突然、アリスが叫ぶ・・・
ブォォォガァァァーーーーーンッ!!!
突然の爆発音・・・モニターにはブライアさんが床に倒れるその視線の映像が映るが、爆発音だけが聞こえ、映像は夕暮れの車両内映像のままだった。
「サーモグラフィー映像に切り替えます!」
そう言ってアリスが切り替えた映像には、銃撃で車両の上半分を粉々に吹き飛ばす凄まじい光景が広がっていた。
もちろん、攻撃してきたのは、第17式機動装甲列車・・・付随車両の後ろを走る17式からバルカン砲を連射されたのだ。
「なんで!?」
俺もブライアさんも、17式は前を走る付随車両に向けては攻撃してこないものだと、勝手に解釈していた。
車両内には限定拡張された空間が広がる・・・この限定拡張の本質を見誤っていた。
限定拡張はそれを演出する装置、ここでいう付随車両の土台部分さえあれば、それ以外の上半分はどうなろうが構わないのだ。
「ブライアさん!マズイです!早く脱出を!」
限定拡張された空間内にいるブライアさんの目には、外からの干渉(バルカン砲)を視覚に写す事が出来ないからだ。
「すまん、修理屋・・・今動けない・・・」
苦しそうな声で、ブライアさんの通信が入る。
「マスター・・・ブライアさんの左胸と左足部分が・・・」
ブライアさんの状態がモニターに映し出される。
「 ブライアさん!!! 」
ブライアさんの左脇腹と左足部分が、バルカン砲により、ごっそり抉り取られていた・・・
WEB小説 拡張された世界 〜第一章15〜
「じゃあ、始めるか!開始のカウントを頼む。」
「はい、20秒前・19・18・17・16・・・ 」
アリスのカウントダウンが始まり、俺も操作レバーに少し力がこもる・・・
「10秒前・・・9・8・7・6・5・4・3・2・1・スタートです!」
アリスの掛け声と共に、湖畔に仕掛けておいた水蒸気煙幕を起動させる。同時に風船型ダミー機体を噴出させ目くらましを狙う・・・当然、AIが相手なので、効果はほとんど無いかもしれないが、やらないよりマシである。
シュ ゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!
辺り一帯、視界を一気に奪う煙に覆われるが、エムズのモニターは赤外線モードに切り替えてある。
ダッダッダッダッダッダッダダダダッ!!
17式からダミー機体に向けてバルカンが打ち込まれている模様・・・風船が破裂する音が鳴り響いている。
17式の注意がダミー機体に向いている間、ブライアさんを甲板に乗せたエムズは、水面下に隠れたまま、ぐるっと回りこむように列車へと接近する・・・しかし、17式の探索能力は簡単に接触を許してくれるようなそんな柔なものでは無い。
「マスター、対象からロックオンされました!」
「迎撃ーーッ!!」
17式の側面部のミサイルがこちらに向けて発射される・・・地対空迎撃ミサイルだ。
ドゴォォォオオオオォォォォォーーーンッ!!
轟音と共に大爆発が起きる。ミサイルがこちらに届く前に散弾銃で迎撃したのだ。
「二射目きます!」
「回避ーーッ!!」
今度はエムズのブースターをフル稼働させて水面下をスライド移動させる。
ドォァァシャャャャーーーーー ンッ!!
間一髪・・・回避行動が成功し、ミサイルは水中で爆発を起こし、水面は大きく浮き上がる。
「連射、きます!」
「ちょっ、火力高過ぎだろッ!!」
素人パイロットの俺が操縦するエムズに向けて、容赦無くミサイルが襲いかかる。
右に左に動き回り、散弾銃とアームバルカンで迎撃しながら直撃を避けるが、全てを防ぎきれるものではない。
ドゴォォォォーーーンッ!!
「被弾!損傷率27%」
「大丈夫!かすっただけだ!」
ミサイルの雨をなんとか搔い潜り体制を整えるが、コクピット内は赤く点滅し、モニタ−には『LOCK ON』の警告文字が消える事無く表示され、そのプレッシャーは凄まじいものだった。今日はただ、修理の仕事に来ただけだったのに、生きるか死ぬかの戦いを今している。
「マスター!まもなく、対象がポイントに到達します。」
「よし、いくぞッ!!アリス!!ジャンプだ!!」
機体のブースター出力を全快にする・・・エムズは垂直方向に大きく浮き上がる。ミサイルの爆風を避けて、大きく飛び上がったのだが、当然エムズは飛行型の機体ではなく、空中にいるといい標的にされるだけなのだが・・・
「マスター、リバイヤキャノンが来ます!!」
「ひぃぃぃぃーーーーーッッッ!!!」
第17式機動装甲列車の主砲であり、地上兵器ではAAランクの高出力を誇るリバイヤキャノン・・・その主砲がこちらに向けられている。
・・・ そして ・・・
ブォォォォァァァァーーーーーッ!!
凄まじい衝撃と共に発射されるキャノン・・・俺は目一杯レバーを倒してスライド移動で逃げようとするが、避けきれない。
ドゴォォォオオオオオーーーーッッ!!
エムズの右腕が吹き飛ばされると共に、衝撃波と爆風で機体ごと回転しながら墜落する・・・そして、湖の水面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。
「機体損傷率74%・・・バックパックが暴発の恐れがあるので、切り離ししました。」
「ボコボコだなぁ・・・アリス!」
「はい。」
「でも、生きてるからな!そこを評価してくれ!」
「はい、流石私のマスターです!素人にしてはなかなかの腕前だったのではないでしょうか!」
「アリスちゃん、そういうとこ、ホント厳しいよね!?」
「はい!」
まあ、17式に一方的にボコられただけなので、そういう評価になるのは仕方ないが、アリスの上から目線に少しムカついた。
でも、17式の注意を存分に引き付ける事が狙いなのだから・・・
「修理屋!生きてるか!?」
「はい、なんとか生きてます!」
・・・ブライアさんから通信が入る。
「こっちは、車両のドアをこじ開けて、今から乗り込む所だ!視界カメラを起動する!」
「はい、了解です!」
・・・最初の煙幕を起動した際、エムズを遥か前方の線路付近まで大回りさせ、そこでブライアさんを降ろした。ブライアさんはそのままレールの下に身を潜め、到着するのを待った。
しかし、立ち上がって車両に乗り込もうとすると、17式に捕捉されてしまうので、到着する瞬間に合わせて、リバイヤキャノンを撃たせるようにしなければならなかった。
・・・・・・・・・・・・
「リバイヤキャノンを射出する瞬間の衝撃で、感知レーダーが一瞬機能停止します・・・ここが車両に乗り込む瞬間です!」
「わかった!でも主砲使わせるのか!?」
「はい!何とかしてでも撃たせますので、タイミング宜しくお願いします!」
・・・・・・・・・・・・
全ては作戦なのだ。ボコられたのも作戦通りなのだ・・・と言う事にして、車両内に潜入したブライアさんの目線から見える景色を眺める事にする。
「アリス、ブライアさんの視界カメラからの映像に切り替えてくれ!」
「はい、マスター!」
・・・ そこには、暴走するニ両の列車の前方付随車両内の映像が映し出される・・・