8mgの小説ブログ

WEB小説(ちょっと挿絵)のブログです。ブログ形式だと順番的に少し読みにくいかもですが、一章ごとに完成したら、別サイトにアップしたいと考えています。※このサイトはリンクフリーです。

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WEB小説『画面の向こうのプロレスラー』をメインで更新中!ちょっとアレな性格の女子レスラーの成長物語ですm(_ _)m

WEB小説 拡張された世界 〜第一章18〜

対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)・・・損傷率74%の現状だけあって流石に機体の至る部分で、不具合が生じている。

 

「その不具合を踏まえた上でシステム構築してますから、心配御無用です!」

だが、アリスからは頼もしい返事が返ってくる。

 

「マスター、左右に走らせてみて下さい!」

アリスの指示通りに機体を左右に旋回させながら移動してみる。

 

「すげぇぇぇーーッ!なんだろう・・・ぬるぬる動く!」

 驚く事に先程までとは、全く別の機体反応を見せてくれる・・・

 

「次のモーションに移る迄の待機時間を、限りなくゼロに近付ける為、予め動きをフライングさせています!」

 

「ちょっと待て!それって、俺が次にどう動かすか予測してるのか?」

 

「はい、先程の戦闘時に収集したマスターの行動操作パターンを基に予測演算させています。」

 

・・・つまりは、予測微行動システム・・・先回りした行動を機体に自動的にさせている訳か・・・

 

「それに、なんだ!この画面は!?」

 

モニターには、画面を覆い隠してしまうような文字情報が溢れている・・・先程までとは全く違う、モニターに映る対象物の様々な情報をリアルタイムで書き出すシステムだとアリスが説明してくれた。

 

「何処からこんな情報を!?」

 

「レールライン本社、周辺の住基管理システム、オーグセキュリティ・・・などに現在ハッキングをかけて、あらゆる情報をこのエムズに集積しています!」

 

何か大変危険な事をしているような気がするが、状況が状況なだけに許してくれるはず・・・だと思う・・・

 

「・・・それにですね!マスターの呼吸や息づかいに合わせた操作性能、マスターの体調、筋肉の硬直具合、柔軟度に合わせた機体反応をチューニングしています!」

 

「・・・アッ、アリス・・・お前・・・」

 

何から何まで至れり尽くせりのシステムをアリスは作ってくれたようだが・・・

 

「でも、呼吸や息づかいって?何処でそんな計測してるんだ!?」

 

「はい、マスターの心拍を計測する為に、こうして密着してるんですよ!いくら密着してるからと言って、エロい事考えないで下さいね!」

 

「てっ!・・・てめぇ・・・じゃあ、俺の体調って言うけど、そんなのわかんのか!?」

 

「さっき、ヘッドギア付けてたじゃないですか〜!?計測させてもらいました!!」

 

アリスには自立AIを搭載させている。

加えて、俺の恩師、永森博士から託されたバックアップメモリーも取り付けているが、それによる演算処理能力の強化だけが、そのメモリーの効果ではなく、何かとてつもない可能性を秘めているように思えた。

 

「お前が凄いってことは・・・よ〜くわかったよ!わかったけど、お前・・・管理者の俺が知らない所で、ちょくちょくチューンナップしてるよね・・・!?」 

 

「はてっ・・・?なんの事でしょうか!?ヨクワカリマセン・・・」

 と、バレバレの嘘をつくアリスをポンと小突く。まあ、こいつのこの向上心が助けになる場合もあるが、永森博士から託された研究が、このアリスなのだから、俺はもっと向上してアリスを管理する・・・見守っていく使命がある。

 

「アリス・・・こんなボロボロになった機体でも、俺はお前といると・・・負ける気がしないんだ。」

 

「はい、私が必ずマスターを勝たせてみせます!!その為の私ですから!!」

  

「ああっ!生きて帰って、祝杯をあげようぜ!」

 

「はい、マスター!!」

 

暴走する列車・・・17式に追いつく為にエムズを加速させる。機体の右腕は吹き飛ばされ応急処置だけ施したガタガタの機体だったが、スピードは落ちていない。

 

「ところで、マスター!?そろそろ出られてはどうでしょうか?」

 

「・・・あぁ。そうだな・・・」

 

出るとは、先程から何回も何回も通信が入っている事・・・ガン無視を決め込んでいたが、通信先の相手はわかっている・・・

 

こちら、エムズ一号機!!」

 

『  悟  !  !  !  』

 

通信に出た途端・・・オーグセキュリティE-03部課長、俺の大学時代の友人、笠原晶子から間髪入れずに怒られる・・・先程のデジャブのようだった。

 

「やっ、やぁ・・・久しぶり!」

 

『やぁじゃない!!悟、あなたがやろうとしている事、今すぐやめなさい!!』

 

彼女にはガン無視していたので無理もないが、かなり御立腹の様子・・・

 

「ブライアさんは無事だから、心配しないでくれ!」

 

『知ってる!!言いたいのは、民間人のあなたが勝手にオーグセキュリティの所有機体を操作して動かせている事・・・自分が何をしてるのか、わかってるの!?』

 

「あぁ、わかってる!!晶子、お前を助けようとしてるんだ!17式・・・お前らとドンパチやったら自爆するぞ!」

 

『ブライアから聞いたわ。今、私もそちらへ向かってる。だから、余計な事しないで!』

 

「いいや、それは出来ない!君ら03部は電脳系事件を主に扱う部署みたいだけど、元研究員の俺から言わせれば、まだまだ素人だ。対機械系スキルは、俺やこいつアリスの足元にも及ばないぞ!」

 

 『何をするつもりなの?』

 

「ええっと・・・プロの犯行・・・」

 

『悟、、、いい加減にしないと・・・」

 

「いやいや、自爆もさせず、被害も最小限に抑えて事件を解決してみせる!俺とアリスとでな!」

 

 『駄目!!悟・・・あなたはあくまで民間人でしょ!!そんなの許されない!!』

 

「許してももらおうとは思わない・・・でもな、ブライアさんから頼まれたんだ。お前の力になってくれって!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

・・・17式への1回目のアタック前・・・

湖の真ん中で待ち構えていた時・・・

 

「ブライアさんは何故、オーグセキュリティに入ったんですか!?」

ブライアさんの経歴について以前話をした事もあったが、深くは聞いた事がなかった。

 

「確か、オーグセキュリティに来る前は、施設警備会社でしたよね?」

 

「そうだ!まぁ、その会社は今のオーグセキュリティに入る準備段階みたいなものだったかな。」

 

「そうでしたか・・・じゃあその前は?」

 

「オーグアーミー地球方面軍に所属していたんだ。」

 

・・・オーグアーミーとは、この世界の軍隊機関のような存在だ。治安維持、災害処理、そして軍事行動といったオーグセキュリティとはまた違う役割を担う機関だった。しかし、所属隊員の95%が機械、ロボットであり、残り5%が擬態化した人間に構成されていたが、その5%の中にブライアさんが含まれていたとの事だ。

 

「オーグアーミーでは、俺達のような人間は宇宙に上がらせてもらえなかった。毎日ただ宇宙から送られてくるエアコンや空気調整機の修理ばかりしていたよ。あの時までは・・・」

 

「あの時って・・・ッ!!エリア22暴動事件の事ですか?」

 

「そうだ。」

 

・・・エリア22暴動事件・・・

今から3年前、地球上、リアース 22-16から19エリアの広範囲の地域で起きた大暴動事件である。

エリア22は元々リアースによる地球の統治管理に反抗的な地域であったが、ある時同時多発テロが起こり、それを発端に他の地域からも反リアース的な組織が集まってくるようになった。そして、その流れは一気に地域住民の蜂起にも繋がり、リアース統治以降最大の暴動事件が発生したのである。

 

「あの時、俺達地球方面軍は16から19迄のエリアを完全封鎖するようにと命令を受け、それに従った。何百キロに及ぶバリケードがはられ、中からも外からも虫一匹も通すなという命令だった。」

 

「その後、何があったんですか?」

 

「宇宙にから、黒いカーテンが落ちて来たんだ。」

 

・・・ブライアさんの説明によると、その言葉通り・・・バリケードの内側に向けて宇宙から黒いカーテンのような物体が降ろされたそうだ。

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章17〜

 

「アリス!ワイヤーを引いてブライアさんを回収!!」

 

「はい!」

 

エムズとブライアさんを繋いでいたワイヤーを巻き上げ、ブライアさんを車両から引き落とす・・・転げるように車両の外に放り出されたブライアさんの身体はそのまま湖に向けて引きずられていく・・・

 

「ブライアさんの所へ急ぐぞ!」

 

「はい、マスター!」

 

それから17式のレーダーに捕捉されないよう距離を調整しながらエムズを動かし、ブライアさんを回収する。

 

・・・ 湖の畔で横たわったブライアさんを介抱する為、俺とアリスはエムズを降りた。

 

「ブライアさん!」

 

「よぉ・・・修理屋・・・」

引きつった表情で挨拶するブライアさんだか、喋っているのが奇跡な程、その状態が酷かった。彼の左胸より下がごっそり無くなっていたからだ。

 

「修理屋・・・擬態の体はいいぞ・・・こんな状態でも、電脳さえやられてなければまだ生きている・・・」

 

「わかりました!わかりましたから、考えておきます!!支局に連絡して救護班も呼んでます。到着するまでの間応急処置しますので、じっとしてて下さい!」

 

擬態化された人間の体は、表面は人の皮膚細胞で覆われているものの、内部のほとんどは機械で構成されている。

内部機器の破片やケーブルの切断等で無残な状態になっているが、外せる所は外し、繋げる所は繋ぐ・・・これをするだけでも、暴発の恐れや体内電流の不全を解消する事が出来る。

 

俺とアリスは、エムズのコクピットに乗せてあった処置道具を使い応急処置に取り掛かる。

 

「修理屋・・・作業しながらでいいから、聞いてくれ・・・」

 

「わかりました!」

 

「・・・さっきのあの車内の老夫婦は、中富博士と彼の奥さんだ・・・後、17式の制御コンピュータには、中富博士の電脳が移植されている・・・」

 

「えっ!!!???」

 

「限定拡張された車両内に入ってみたらわかった・・・中富博士の意思が伝わってきたように思う・・・」

 

ブライアさんが言うように、限定拡張された空間に実際に入る事により、その演出元の意識や思いをごく僅かに共有出来る事がある。

ブライアさんの電脳と17式に搭載された中富博士の電脳とが限定拡張を通して共鳴したと考えられる。

 

「後・・・中富博士はあの時、奥さんと何か話をしていただろう・・・あれは、この旅が終われば、一緒に行こうって言っていた・・・」

 

「行くって・・・何処へですか!?」

 

「おそらく・・・列車の暴走が止まったら・・・17式は自爆するつもりだ・・・」

 

「えぇぇ!!!!!」

 

ブライアさんは車両内に入って、中富博士の色々な意思を読み取ったに違いない。その中から、今必要な事を掻い摘んで話してくれる。

 

「・・・だから、修理屋・・・頼みがある・・・笠原課長達を守ってくれ・・・」

 

「もちろんです!」

 

「今から・・・作戦を伝える・・・」

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・ブライアさんに一通りの応急処置を施した。

 

「ブライアさん、待っていて下さい!必ず勝利の報告を届けてみせます!」

 

「・・・あぁ・・・でも、こんなこと民間人にやらせるわけにはいかないんだけどな・・・任せた・・・」

 

ブライアさんはそのまま目を閉じて休む・・・擬態とはいえ、体への外傷は電脳に大きな負荷を与えていたのにもかかわらず、気力でここまで作戦を伝えてくれた・・・そして、俺に託してくれたのだから、ここは何としてもやり切らなければならない。

 

「アリス!!」

 

「はい、マスター!」

 

「今から、エムズに乗り込んで、もう一度17式にアタックを仕掛けるんだけど、勝利確率を計算してもらえるか?」

 

「はい!ズバリ4%です!」

 

「ヘっへ・・・やるじゃん!ゼロじゃないんだな!?」

 

「はい、現在の機体損傷率や装備状況、17式の武器スペックから割り出した確率です!」

 

・・・4/100とは、ちょっとどころの厳しさではないが、17式が自爆しようとしている事を考えると、この場を引くなど選択肢にはない。

 

「マスター!!」

 

「なんだ、アリス!?」

 

「確かに4%と言いましたが、この確率を100%まで上げてみせましょうか?」

 

「はぁっ!?」

一瞬、アリスが何を言ってるのかわからなかった。

 

「だから!私がマスターに勝利をもたらせましょうかと言う事です!」

 

「お前・・・すごい自信だなぁ・・・?」

 

「私はマスターのアシストロボットです!だからマスターを勝利へ導くのは当然の事です!」

 

ロボットだからかもしれないが、アリスはなんの躊躇いもなく勝利を確信したような口調で俺に問いかける。そして、手を差し伸べてくる・・・そんな光景は、天使に手を引かれているのか、死神に魂を吸われているのかのどちらかわからなかった・・・どちらにしても死ぬという事なのか・・・

 

「アリス、何の根拠もないけど、お前の提案を受け入れるよ!!俺を勝利へ導いてくれ!!」

 

「はいっ!マスター!」

 

・・・そして、俺とアリスはエムズに乗り込んだ。向かうは第17式機動装甲列車だ。

 

「で、具体的にどうするつもりなんだ!?」

 

 「はい、先程の戦闘で、マスターのパイロットとしての基本情報はラーニングしました!機体を動かす時のクセも含めてです。」

 

「うん・・・それで・・・?」

 

「その情報を元に機体のシステム系統を一新します!このエムズをマスターと私だけの機体にするんです!」

 

それからアリスの説明によると、俺のパイロットとしての腕前、クセ、スキルに合わせた操作機能にシステムを変換し、最大限の効率、効果を発揮する為のシステムナビゲートを構築すると共に、エネミー解析による予測演算を行う事だった。今ひとつよくわからなかったが、試してみればわかるだろう。

 

「マスター、失礼します・・・」

 

その後、突然アリスがコクピットに座る俺の膝の上に座ってきた。

 

「おい・・・アリス・・・何やってんの?」

 

「マスターの目線に一番近い場所から情報を観測する為です!これだけでも、性能はグンと上がるんですよ!」

 

「ま、まぁ、わからないでもないけど・・・お前の頭が邪魔で見え辛いんですけど・・・!?」

 

「えっ?ちょっと待って下さい!」

 

「おいっ!ゴソゴソと動くなっ!おいっ!」

 

「ひぃゃっ!マスターのエッチ!!」

 

「てめぇ・・言わせておけば!!!」

 

 ・・・今から死地へ向かおうというのに、こんな所でイチャイチャしている場合ではない・・・

 

「これでいいだろ!?」

 

「はいっ!」

 

「じゃあ、行くか!!」

 

「はい、マスター!」

 

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・・・向かうは第17式機動装甲列車・・・俺達はエムズは発進させる・・・

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章16〜

「なんだ・・・これは・・・???」

 

・・・夕暮れ時・・・日が水平線に沈もうとする景色を背に、穏やかな風景が車両内に広がっていた・・・

 

「修理屋、これはどういう事だ?」

 

「はい、おそらく車両内限定で空間が拡張されています。」

 

拡張世界(オーグリアリティ)は人間の脳内ナノチップを通して、この世界を覆っており、俺みたいな一部の例外を除いて、どの場所でも視界には拡張世界を広がっている。

その拡張世界の応用として、部分的に拡張世界を操作する技術が存在する。『空間拡張』と呼ばれるもので、17式のステルスコーティングもその種類の一つだ。他には、コンサートなどのイベントで空間拡張を使って様々な演出をする例もある。

 

「車両の土台が舞台装置になって、その景色を映していると思われます。」

 

「その理由がイマイチよくわからないな。」

 

なぜ、内側でこんな風景を演出しながら、外側では列車を暴走させているのか・・・

 

「でも、ほらっ、あそこを見てくれ!」

 

「老夫婦・・・?」

 

車両内・・・ブライアさんが現在いる位置から奥の優先座席に、仲睦まじく寄り添う老夫婦の姿がそこにはあった。

 

その時だった・・・

「マスター、ブライアさん!本庁から入電が入りました。」

 

「切り替えてくれ、嬢ちゃん!」

 

・・・オーグセキュリティE本庁から共同通信が入る・・・

 

『対象、第17式機動装甲列車の所有者が判明・・・所有者は中富康之、72歳没、ベイエリア倉庫に保管されていた車両が突然動き出したとの事。その後、対象はレールライン車両倉庫で付随車両に連結した後、暴走を始め現在に至る。所有者の中富康之氏は、かつてレールライン開発技術研究所所長を務めており、退所後は民間企業の技術部に所属し、三ヶ月前に電脳結核により死亡。顔写真を転送する。』

 

・・・転送されてきた写真を見ると、やはりそうだった。

 

「あそこの老夫婦のおじいさん・・・中富博士だな!」

 

「そうですね!」

 

亡くなったはずの中富博士が、空間拡張によってそこに存在している。おそらくは、中富博士の意思が、車両内の景色に関係しているのだろう。

 

「アリス、中富博士の周辺情報について調べてくれ!」

 

「はい、マスター!」

 

・・・本庁からの続報を待つよりも、アリスに調べさせた方が早い。

 

「修理屋、中富博士の隣の御婦人はおそらく博士の奥さんだろう。さっきからあの夫婦・・・ずっと話をしてるようだから、一度接触を試みるよ!」

 

「お気を付けて!」

 

「ああ!」

 

今回の事件、暴走する列車の原因が、中富博士である事は間違いない。その原因を突き止めることが出来れば、列車の暴走も止められると思っていた。

 

・・・モニターには、ブライアさんが老夫婦にどんどん近付いていく様子が映し出される。

 

 「んっ?どういう事だ!?」

ブライアさんが老夫婦の話に何か気付いたその時だった・・・

 

 

「 伏 せ て く だ さ い ! ! 」

突然、アリスが叫ぶ・・・

 

ブォォォガァァァーーーーーンッ!!!

 

 突然の爆発音・・・モニターにはブライアさんが床に倒れるその視線の映像が映るが、爆発音だけが聞こえ、映像は夕暮れの車両内映像のままだった。

 

「サーモグラフィー映像に切り替えます!」

そう言ってアリスが切り替えた映像には、銃撃で車両の上半分を粉々に吹き飛ばす凄まじい光景が広がっていた。

もちろん、攻撃してきたのは、第17式機動装甲列車・・・付随車両の後ろを走る17式からバルカン砲を連射されたのだ。

 

「なんで!?」

 

俺もブライアさんも、17式は前を走る付随車両に向けては攻撃してこないものだと、勝手に解釈していた。

車両内には限定拡張された空間が広がる・・・この限定拡張の本質を見誤っていた。

限定拡張はそれを演出する装置、ここでいう付随車両の土台部分さえあれば、それ以外の上半分はどうなろうが構わないのだ。

 

「ブライアさん!マズイです!早く脱出を!」

 

限定拡張された空間内にいるブライアさんの目には、外からの干渉(バルカン砲)を視覚に写す事が出来ないからだ。

 

「すまん、修理屋・・・今動けない・・・」

苦しそうな声で、ブライアさんの通信が入る。

 

「マスター・・・ブライアさんの左胸と左足部分が・・・」

ブライアさんの状態がモニターに映し出される。

 

「 ブライアさん!!! 」

 

ブライアさんの左脇腹と左足部分が、バルカン砲により、ごっそり抉り取られていた・・・

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章15〜

「じゃあ、始めるか!開始のカウントを頼む。」

 

「はい、20秒前・19・18・17・16・・・ 」

アリスのカウントダウンが始まり、俺も操作レバーに少し力がこもる・・・

 

「10秒前・・・9・8・7・6・5・4・3・2・1・スタートです!」

 

アリスの掛け声と共に、湖畔に仕掛けておいた水蒸気煙幕を起動させる。同時に風船型ダミー機体を噴出させ目くらましを狙う・・・当然、AIが相手なので、効果はほとんど無いかもしれないが、やらないよりマシである。

 

シュ ゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!

 

辺り一帯、視界を一気に奪う煙に覆われるが、エムズのモニターは赤外線モードに切り替えてある。

 

ダッダダダダダッ!!

 

17式からダミー機体に向けてバルカンが打ち込まれている模様・・・風船が破裂する音が鳴り響いている。

 

17式の注意がダミー機体に向いている間、ブライアさんを甲板に乗せたエムズは、水面下に隠れたまま、ぐるっと回りこむように列車へと接近する・・・しかし、17式の探索能力は簡単に接触を許してくれるようなそんな柔なものでは無い。

 

「マスター、対象からロックオンされました!」

 

「迎撃ーーッ!!」

 

17式の側面部のミサイルがこちらに向けて発射される・・・地対空迎撃ミサイルだ。

 

ドゴォォォオオオオォォォォォーーーンッ!!

 

轟音と共に大爆発が起きる。ミサイルがこちらに届く前に散弾銃で迎撃したのだ。

 

「二射目きます!」

 

「回避ーーッ!!」

 

今度はエムズのブースターをフル稼働させて水面下をスライド移動させる。

 

ドォァァシャャャャーーーーー ンッ!!

 

間一髪・・・回避行動が成功し、ミサイルは水中で爆発を起こし、水面は大きく浮き上がる。

 

「連射、きます!」

 

「ちょっ、火力高過ぎだろッ!!」

 

素人パイロットの俺が操縦するエムズに向けて、容赦無くミサイルが襲いかかる。

 

右に左に動き回り、散弾銃とアームバルカンで迎撃しながら直撃を避けるが、全てを防ぎきれるものではない。

 

ドゴォォォォーーーンッ!!

 

「被弾!損傷率27%」

 

「大丈夫!かすっただけだ!」

 

ミサイルの雨をなんとか搔い潜り体制を整えるが、コクピット内は赤く点滅し、モニタ−には『LOCK ON』の警告文字が消える事無く表示され、そのプレッシャーは凄まじいものだった。今日はただ、修理の仕事に来ただけだったのに、生きるか死ぬかの戦いを今している。

 

「マスター!まもなく、対象がポイントに到達します。」 

 

「よし、いくぞッ!!アリス!!ジャンプだ!!」

 

機体のブースター出力を全快にする・・・エムズは垂直方向に大きく浮き上がる。ミサイルの爆風を避けて、大きく飛び上がったのだが、当然エムズは飛行型の機体ではなく、空中にいるといい標的にされるだけなのだが・・・

 

「マスター、リバイヤキャノンが来ます!!」

 

「ひぃぃぃぃーーーーーッッッ!!!」

 

第17式機動装甲列車の主砲であり、地上兵器ではAAランクの高出力を誇るリバイヤキャノン・・・その主砲がこちらに向けられている。

 

・・・ そして ・・・

 

ブォォォォァァァァーーーーーッ!!

 

凄まじい衝撃と共に発射されるキャノン・・・俺は目一杯レバーを倒してスライド移動で逃げようとするが、避けきれない。

 

ドゴォォォオオオオオーーーーッッ!!

 

エムズの右腕が吹き飛ばされると共に、衝撃波と爆風で機体ごと回転しながら墜落する・・・そして、湖の水面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。

 

「機体損傷率74%・・・バックパックが暴発の恐れがあるので、切り離ししました。」

 

「ボコボコだなぁ・・・アリス!」

 

「はい。」

 

「でも、生きてるからな!そこを評価してくれ!」

 

「はい、流石私のマスターです!素人にしてはなかなかの腕前だったのではないでしょうか!」

 

「アリスちゃん、そういうとこ、ホント厳しいよね!?」

 

「はい!」

 

まあ、17式に一方的にボコられただけなので、そういう評価になるのは仕方ないが、アリスの上から目線に少しムカついた。

でも、17式の注意を存分に引き付ける事が狙いなのだから・・・

 

「修理屋!生きてるか!?」

 

「はい、なんとか生きてます!」

 

・・・ブライアさんから通信が入る。

 

「こっちは、車両のドアをこじ開けて、今から乗り込む所だ!視界カメラを起動する!」

 

「はい、了解です!」

 

・・・最初の煙幕を起動した際、エムズを遥か前方の線路付近まで大回りさせ、そこでブライアさんを降ろした。ブライアさんはそのままレールの下に身を潜め、到着するのを待った。

しかし、立ち上がって車両に乗り込もうとすると、17式に捕捉されてしまうので、到着する瞬間に合わせて、リバイヤキャノンを撃たせるようにしなければならなかった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「リバイヤキャノンを射出する瞬間の衝撃で、感知レーダーが一瞬機能停止します・・・ここが車両に乗り込む瞬間です!」

 

「わかった!でも主砲使わせるのか!?」

 

「はい!何とかしてでも撃たせますので、タイミング宜しくお願いします!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

全ては作戦なのだ。ボコられたのも作戦通りなのだ・・・と言う事にして、車両内に潜入したブライアさんの目線から見える景色を眺める事にする。

 

「アリス、ブライアさんの視界カメラからの映像に切り替えてくれ!」

 

「はい、マスター!」

 

・・・ そこには、暴走するニ両の列車の前方付随車両内の映像が映し出される・・・

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章14〜

・・・ ここは、07-17エリア04 ・・・

 

レールラインが南北に延びており、その西側に大きな湖が広がっている。

 

その湖の真ん中に、一人の男性が立っていた・・・

 

水面に人が・・・一見すれば不思議な光景だ。

 

もちろん、水面に立つ男性はブライアさんで、そのブライアさんの足下には、俺が操縦する対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)の機体が水面下に隠してある。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『勝手な行動は許さんぞ!!』

通信の向こうから怒鳴る晶子の声が聞こえてくる。

 

「大丈夫だ、課長!ホントにヤバい時は必ず撤退する。その辺の事はわきまえております。只対象の情報をもうちょっと掴んでみたいんだ!」

 

『止めろっ!ブライ・・・』

 

ブライアさんは通信を強制的にシャットアウトする・・・

 

「課長にまた怒られるだろうなぁ・・・だけど、彼女・・・笠原課長を危険な目に遭わせたくないんだよなぁ・・・」

ブライアさんの言葉には、晶子を気遣う優しさが込められているように感じた。

 

「17式とドンパチする時、絶対に晶子は最前線で戦いますからね!?」

晶子は、後方でノンビリと指令を出すタイプではない。

 

「そうなんだよなぁ・・・だから、修理屋手伝ってくれるか!?」

 

「もちろんです!!」

 

それから、ブライアさんに具体的な作戦について説明を受ける・・・

 

「俺が単身で前の車両に乗り込むから、修理屋はエムズを操作して俺をその車両まで運んでくれ!その間、17式から攻撃されると思うので迎撃しながらになってしまうが・・・」

なかなか、ヘビーな内容ではあるが、俺も技術者としてエムズのような兵器関係にも通じており、何度も試験運転もした事がある。

 

「大丈夫です!私がいるのでお任せ下さい。」

そして、今はアリスがこの機体のコアコンピュータとして機能させている。

  

「ああっ、そうだな!何せ今はお前がいてくれるもんな!」

 

「はい、マスターのようなポンコツパイロットでも、エース級の結果を出させる・・・それが私、アリスの役目です。」

 

「おまっ、ポンコツ言うな!!」

 

アリスがこの機体を制御して、しばらく時間も経っている。演算処理と機体動作とのバランスもかなり慣れてきたようだし、ここはアリスの力を頼るしかない。

 

「アリス!しっかり俺を導いてくれ!そして、俺について来てくれ!」

 

「はい!地獄でも何処へでも付いていきます!」

 

「おまっ、縁起でもない事言うな!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ・・・それから、何処でアタックをかけるかについて検討し、ここの湖に決まった。理由は民家や建物もなく、17式から迎撃されても他に被害が及ぶ心配が少ない事と、17式が持つ主砲・・・リバイヤキャノンの死角から接近出来るからだ。

 

暴走する列車を飛び越えて、少しでも17式からのレーダー捕捉を回避する為、湖の真ん中に着水した。ここで、暴走列車を待ち構える作戦だ。

 

・・・コクピットから機体の上部甲板に出て、装備品をチェックするブライアさん。いくら擬態化しているとはいえ、単身で砲弾の中を掻い潜り車両に乗り込もうと言うのだが、彼の体とエムズの機体とを細いワイヤーで繋ぐ。

 

「何かあった時は、全力でこのワイヤーを引っ張って、引き摺ってでもブライアさんを回収しますので。」

 

「ああ!任せる!」

 

・・・ 嵐の前の静けさ・・・と言うべきだろうか?

 

レールライン周辺の道路封鎖や周辺住民の避難は迅速に行われているようで、辺りは騒音など聞こえず静まり返っている。

 

「対象、間も無く接近してきます。」

アリスの報告で、俺もブライアさんも身構える。

 

・・・ガタンゴトンと、遠くの方から列車の走る音がレールを伝って聞こえてくる。

 

「きます!」

 

・・・前を走る付随車両、後ろから押す動力車両の第17式機動装甲列車が近付いてきた。

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章13〜

「これは・・・!?」

 

・・・ モニターに映し出された映像に驚くブライアさん・・・

 

「前に一度見た事があったんだけどな・・・これが修理屋が見ている景色なのか?」

 

「そうです。灰色の空に、建て物、これがキャンセラーの見る景色です。でも、普段は拡張世界を映す眼鏡を掛けてますから!」

 

人は生まれた時に脳内にナノチップを埋め込まれる・・・物心付いた頃から拡張世界の中で生きているからこそ、この世界の真の姿を見るとショックを受ける事が多い。

 

「アリス!対象のみキャンセル映像を映し、後は拡張世界に戻してくれ。」

 

「了解です、マスター。」

 

・・・再び、モニター映像が切り替わり、白黒の世界からカラフルな世界に戻る。

 

「すまんな、修理屋!この映像は本庁、支局の人間にはなかなか見せたくない映像なもんでな!」

ブライアさんが言う通り、この世界の真の姿と拡張世界とを見比べてばかりいると、その両方のギャップに精神が追い付けなくなり、脳に障害を起こす人間もいる。

 

「いえいえ、理解しています。」

 

拡張された世界の中で当たり前に生きてきた人間にとって、この世界の真の姿は刺激的過ぎるのだ。

 

「マスター、対象データを解析しました。対象は第17式機動装甲列車後継機モデルです。」

 

・・・アリスが対象解析データをモニター上に表示してくれる。16連ミサイルポッド、リバイヤキャノン、360°回転式バルカンを4機搭載した走る要塞であり、誘導弾等、かなりカスタマイズされている様子だ。

 

「このデータを本庁、支局の各部に転送してもらえるか、嬢ちゃん!?」

 

「はい、ブライア様!それと、先程から何度も通信が入ってますがいかがいたしましょうか?」

 

もちろん、通信元はオーグセキュリティE-03部の課長笠原晶子からだと推測される。流石にもう通信エラーは言い訳には出来ないようだ。

 

こちらブライア!エムズ一号機にて対象付近に展開中!」

少し、引きつった声で通信に応答する・・・

 

『 ブ ラ イ ア ッ ! ! 』

開口一番、雷が落ちた。声からわかる晶子の鬼の形相・・・もう、念仏を唱えるしかない。

 

「すまない課長・・・現場に一番乗りしてしまいました。」

 

・・・その後も、ブライアさんは晶子から色々雷を落とされていたが、流石年の功・・・上手く話を流しながら情報解析の重要性を訴えている。

 

『それと隣にいるんでしょ悟!』

 

怒りの矛先がこちらに向けられた。もはや、逃げ場はないようだ。

 

「いや、こっちにはいません。」

 

『 サ ト ル !』

 

「嘘ですッ!います。めちゃくちゃここにいます。」

・・・晶子は冷静で高圧的、一番シャレにならないタイプの人間だ。

 

『さっきの対象解析・・・あなたがやったのね!』

 

 「ああっ!捜査官の危険度を少しでも下げようと思ってやった事だ。後悔はしていない。」

 

『そう・・・悟は昔からいつもそうだね!』

怒りが鎮まり、冷静になった晶子の反応に、俺は少し驚いた。 

 

『じゃあ、この件が片付いたら、しっかり悟には償いをしてもらうわ!月ヶ瀬悟容疑者さん!』

 

「あっ・・・あの〜。その逮捕状の件の事把握していらっしゃるのですね・・・。マジでやるつもりなの?」

 

『もちろん!』

 

なんの躊躇いもない真っ直ぐな返事が返ってきる。晶子は俺とアリス、そしてブライアさんがどうやってオーグセキュリティEを抜け出してきたのか、その経緯も行動もしっかりとわかっているようだった。月ヶ瀬悟・・・俺の運命も尽きる。

 

「ははっ!修理屋、そう気を落とすな!俺がなんとかしてやる!」

 

「ブライアさん!」

流石頼りになるおやっさんだ。

 

『ブライア!ちなみにお前もお咎めなしで済むと思うな!』

 

「おいおい、つれないなぁ〜課長は・・・で、これから課長達はどう展開するつもりですか?」

 

『今、ブライア達がいる地点から80キロ先・・・07-16エリア09・・この谷間の地点で対象を迎え撃つ為、現在本庁支局と連携して陣を敷いているの!』 

 モニターに映してその地点を表示してくれる。レールライン上現在地からその地点までは分岐点はなく、周りに民家や建物もない、迎え撃つには最適なポイントだ。

 

 「だけど、課長!相手は17式ですよ!周りが火の海になります。」

 

『ああ、わかっている。だから、今増援も要請しているし、私達もその地点へ向かっている。ブライアは対象の様子を伺いながら並走するように!対象が急停止したり、別行動をとった場合は報告するように!』

第17式機動装甲列車は重装備で火力も高く、防衛能力に長けた装甲列車である。オーグセキュリティEの戦力だけで、17式と対戦すればかなり痛手を飼うのは目に見えている。

 

「ブライアさん、晶子、あいつは17式を迎撃するつもりですが、正面から挑んで無傷ですむような相手じゃないです!」

 

「ああ、そうだな。このエムズと俺達で出来ることはやってみよう!」

 

「はい!手伝わせて下さい!」

 

晶子は暴走列車の状況確認だけで、対象には手を出すなと言ったが、オーグセキュリティで用意できる戦力の中、一番高火力なのはこのエムズだ。

この対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)が今動かずして、いつ動く!!

まだ、あの暴走する列車が、どのような目的を持って、何のために走るかも分かっていない状況だ。解析で前方車両も後方17式も無人であるとは分かったが、だからと言って

戦闘に突入するのは最終的な方法でいいはずだ。

 

「ブライアさん、どう攻略します!?」

 

「なんで、17式はわざわざステルス化して、前の車両を押しながら進むと思う?わざわざカモフラージュして走ってると思う?」

 

「17式が暴走して、どこかで付随車両を引っ掛けてそのまま押して走ってるのかと思いましたが、ちゃんと連結されてますよね!」

映像解析では第17式機動装甲列車と前の付随車両とは、きっちりと連結されている状態が伺える・・・という事は、意図的にあの連結状態で暴走していると思われる。

 

「前の車両・・・気にならないか?」

 

「なります!」

 

「ちょっと、俺・・・前の車両に乗り込んでくるよ!」

 

「なっ!?」

 

「修理屋、その間、運転・・・お願い出来るか?」

 

・・・ 俺はブライアさんの突然の提案に驚く ・・・