8mgの小説ブログ

WEB小説(ちょっと挿絵)のブログです。ブログ形式だと順番的に少し読みにくいかもですが、一章ごとに完成したら、別サイトにアップしたいと考えています。※このサイトはリンクフリーです。

20210220223629

WEB小説『画面の向こうのプロレスラー』をメインで更新中!ちょっとアレな性格の女子レスラーの成長物語ですm(_ _)m

WEB小説 拡張された世界 〜第一章16〜

「なんだ・・・これは・・・???」

 

・・・夕暮れ時・・・日が水平線に沈もうとする景色を背に、穏やかな風景が車両内に広がっていた・・・

 

「修理屋、これはどういう事だ?」

 

「はい、おそらく車両内限定で空間が拡張されています。」

 

拡張世界(オーグリアリティ)は人間の脳内ナノチップを通して、この世界を覆っており、俺みたいな一部の例外を除いて、どの場所でも視界には拡張世界を広がっている。

その拡張世界の応用として、部分的に拡張世界を操作する技術が存在する。『空間拡張』と呼ばれるもので、17式のステルスコーティングもその種類の一つだ。他には、コンサートなどのイベントで空間拡張を使って様々な演出をする例もある。

 

「車両の土台が舞台装置になって、その景色を映していると思われます。」

 

「その理由がイマイチよくわからないな。」

 

なぜ、内側でこんな風景を演出しながら、外側では列車を暴走させているのか・・・

 

「でも、ほらっ、あそこを見てくれ!」

 

「老夫婦・・・?」

 

車両内・・・ブライアさんが現在いる位置から奥の優先座席に、仲睦まじく寄り添う老夫婦の姿がそこにはあった。

 

その時だった・・・

「マスター、ブライアさん!本庁から入電が入りました。」

 

「切り替えてくれ、嬢ちゃん!」

 

・・・オーグセキュリティE本庁から共同通信が入る・・・

 

『対象、第17式機動装甲列車の所有者が判明・・・所有者は中富康之、72歳没、ベイエリア倉庫に保管されていた車両が突然動き出したとの事。その後、対象はレールライン車両倉庫で付随車両に連結した後、暴走を始め現在に至る。所有者の中富康之氏は、かつてレールライン開発技術研究所所長を務めており、退所後は民間企業の技術部に所属し、三ヶ月前に電脳結核により死亡。顔写真を転送する。』

 

・・・転送されてきた写真を見ると、やはりそうだった。

 

「あそこの老夫婦のおじいさん・・・中富博士だな!」

 

「そうですね!」

 

亡くなったはずの中富博士が、空間拡張によってそこに存在している。おそらくは、中富博士の意思が、車両内の景色に関係しているのだろう。

 

「アリス、中富博士の周辺情報について調べてくれ!」

 

「はい、マスター!」

 

・・・本庁からの続報を待つよりも、アリスに調べさせた方が早い。

 

「修理屋、中富博士の隣の御婦人はおそらく博士の奥さんだろう。さっきからあの夫婦・・・ずっと話をしてるようだから、一度接触を試みるよ!」

 

「お気を付けて!」

 

「ああ!」

 

今回の事件、暴走する列車の原因が、中富博士である事は間違いない。その原因を突き止めることが出来れば、列車の暴走も止められると思っていた。

 

・・・モニターには、ブライアさんが老夫婦にどんどん近付いていく様子が映し出される。

 

 「んっ?どういう事だ!?」

ブライアさんが老夫婦の話に何か気付いたその時だった・・・

 

 

「 伏 せ て く だ さ い ! ! 」

突然、アリスが叫ぶ・・・

 

ブォォォガァァァーーーーーンッ!!!

 

 突然の爆発音・・・モニターにはブライアさんが床に倒れるその視線の映像が映るが、爆発音だけが聞こえ、映像は夕暮れの車両内映像のままだった。

 

「サーモグラフィー映像に切り替えます!」

そう言ってアリスが切り替えた映像には、銃撃で車両の上半分を粉々に吹き飛ばす凄まじい光景が広がっていた。

もちろん、攻撃してきたのは、第17式機動装甲列車・・・付随車両の後ろを走る17式からバルカン砲を連射されたのだ。

 

「なんで!?」

 

俺もブライアさんも、17式は前を走る付随車両に向けては攻撃してこないものだと、勝手に解釈していた。

車両内には限定拡張された空間が広がる・・・この限定拡張の本質を見誤っていた。

限定拡張はそれを演出する装置、ここでいう付随車両の土台部分さえあれば、それ以外の上半分はどうなろうが構わないのだ。

 

「ブライアさん!マズイです!早く脱出を!」

 

限定拡張された空間内にいるブライアさんの目には、外からの干渉(バルカン砲)を視覚に写す事が出来ないからだ。

 

「すまん、修理屋・・・今動けない・・・」

苦しそうな声で、ブライアさんの通信が入る。

 

「マスター・・・ブライアさんの左胸と左足部分が・・・」

ブライアさんの状態がモニターに映し出される。

 

「 ブライアさん!!! 」

 

ブライアさんの左脇腹と左足部分が、バルカン砲により、ごっそり抉り取られていた・・・

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章15〜

「じゃあ、始めるか!開始のカウントを頼む。」

 

「はい、20秒前・19・18・17・16・・・ 」

アリスのカウントダウンが始まり、俺も操作レバーに少し力がこもる・・・

 

「10秒前・・・9・8・7・6・5・4・3・2・1・スタートです!」

 

アリスの掛け声と共に、湖畔に仕掛けておいた水蒸気煙幕を起動させる。同時に風船型ダミー機体を噴出させ目くらましを狙う・・・当然、AIが相手なので、効果はほとんど無いかもしれないが、やらないよりマシである。

 

シュ ゥゥゥゥァァァァーーーーッ!!

 

辺り一帯、視界を一気に奪う煙に覆われるが、エムズのモニターは赤外線モードに切り替えてある。

 

ダッダダダダダッ!!

 

17式からダミー機体に向けてバルカンが打ち込まれている模様・・・風船が破裂する音が鳴り響いている。

 

17式の注意がダミー機体に向いている間、ブライアさんを甲板に乗せたエムズは、水面下に隠れたまま、ぐるっと回りこむように列車へと接近する・・・しかし、17式の探索能力は簡単に接触を許してくれるようなそんな柔なものでは無い。

 

「マスター、対象からロックオンされました!」

 

「迎撃ーーッ!!」

 

17式の側面部のミサイルがこちらに向けて発射される・・・地対空迎撃ミサイルだ。

 

ドゴォォォオオオオォォォォォーーーンッ!!

 

轟音と共に大爆発が起きる。ミサイルがこちらに届く前に散弾銃で迎撃したのだ。

 

「二射目きます!」

 

「回避ーーッ!!」

 

今度はエムズのブースターをフル稼働させて水面下をスライド移動させる。

 

ドォァァシャャャャーーーーー ンッ!!

 

間一髪・・・回避行動が成功し、ミサイルは水中で爆発を起こし、水面は大きく浮き上がる。

 

「連射、きます!」

 

「ちょっ、火力高過ぎだろッ!!」

 

素人パイロットの俺が操縦するエムズに向けて、容赦無くミサイルが襲いかかる。

 

右に左に動き回り、散弾銃とアームバルカンで迎撃しながら直撃を避けるが、全てを防ぎきれるものではない。

 

ドゴォォォォーーーンッ!!

 

「被弾!損傷率27%」

 

「大丈夫!かすっただけだ!」

 

ミサイルの雨をなんとか搔い潜り体制を整えるが、コクピット内は赤く点滅し、モニタ−には『LOCK ON』の警告文字が消える事無く表示され、そのプレッシャーは凄まじいものだった。今日はただ、修理の仕事に来ただけだったのに、生きるか死ぬかの戦いを今している。

 

「マスター!まもなく、対象がポイントに到達します。」 

 

「よし、いくぞッ!!アリス!!ジャンプだ!!」

 

機体のブースター出力を全快にする・・・エムズは垂直方向に大きく浮き上がる。ミサイルの爆風を避けて、大きく飛び上がったのだが、当然エムズは飛行型の機体ではなく、空中にいるといい標的にされるだけなのだが・・・

 

「マスター、リバイヤキャノンが来ます!!」

 

「ひぃぃぃぃーーーーーッッッ!!!」

 

第17式機動装甲列車の主砲であり、地上兵器ではAAランクの高出力を誇るリバイヤキャノン・・・その主砲がこちらに向けられている。

 

・・・ そして ・・・

 

ブォォォォァァァァーーーーーッ!!

 

凄まじい衝撃と共に発射されるキャノン・・・俺は目一杯レバーを倒してスライド移動で逃げようとするが、避けきれない。

 

ドゴォォォオオオオオーーーーッッ!!

 

エムズの右腕が吹き飛ばされると共に、衝撃波と爆風で機体ごと回転しながら墜落する・・・そして、湖の水面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。

 

「機体損傷率74%・・・バックパックが暴発の恐れがあるので、切り離ししました。」

 

「ボコボコだなぁ・・・アリス!」

 

「はい。」

 

「でも、生きてるからな!そこを評価してくれ!」

 

「はい、流石私のマスターです!素人にしてはなかなかの腕前だったのではないでしょうか!」

 

「アリスちゃん、そういうとこ、ホント厳しいよね!?」

 

「はい!」

 

まあ、17式に一方的にボコられただけなので、そういう評価になるのは仕方ないが、アリスの上から目線に少しムカついた。

でも、17式の注意を存分に引き付ける事が狙いなのだから・・・

 

「修理屋!生きてるか!?」

 

「はい、なんとか生きてます!」

 

・・・ブライアさんから通信が入る。

 

「こっちは、車両のドアをこじ開けて、今から乗り込む所だ!視界カメラを起動する!」

 

「はい、了解です!」

 

・・・最初の煙幕を起動した際、エムズを遥か前方の線路付近まで大回りさせ、そこでブライアさんを降ろした。ブライアさんはそのままレールの下に身を潜め、到着するのを待った。

しかし、立ち上がって車両に乗り込もうとすると、17式に捕捉されてしまうので、到着する瞬間に合わせて、リバイヤキャノンを撃たせるようにしなければならなかった。

 

・・・・・・・・・・・・

 

「リバイヤキャノンを射出する瞬間の衝撃で、感知レーダーが一瞬機能停止します・・・ここが車両に乗り込む瞬間です!」

 

「わかった!でも主砲使わせるのか!?」

 

「はい!何とかしてでも撃たせますので、タイミング宜しくお願いします!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

全ては作戦なのだ。ボコられたのも作戦通りなのだ・・・と言う事にして、車両内に潜入したブライアさんの目線から見える景色を眺める事にする。

 

「アリス、ブライアさんの視界カメラからの映像に切り替えてくれ!」

 

「はい、マスター!」

 

・・・ そこには、暴走するニ両の列車の前方付随車両内の映像が映し出される・・・

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章14〜

・・・ ここは、07-17エリア04 ・・・

 

レールラインが南北に延びており、その西側に大きな湖が広がっている。

 

その湖の真ん中に、一人の男性が立っていた・・・

 

水面に人が・・・一見すれば不思議な光景だ。

 

もちろん、水面に立つ男性はブライアさんで、そのブライアさんの足下には、俺が操縦する対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)の機体が水面下に隠してある。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『勝手な行動は許さんぞ!!』

通信の向こうから怒鳴る晶子の声が聞こえてくる。

 

「大丈夫だ、課長!ホントにヤバい時は必ず撤退する。その辺の事はわきまえております。只対象の情報をもうちょっと掴んでみたいんだ!」

 

『止めろっ!ブライ・・・』

 

ブライアさんは通信を強制的にシャットアウトする・・・

 

「課長にまた怒られるだろうなぁ・・・だけど、彼女・・・笠原課長を危険な目に遭わせたくないんだよなぁ・・・」

ブライアさんの言葉には、晶子を気遣う優しさが込められているように感じた。

 

「17式とドンパチする時、絶対に晶子は最前線で戦いますからね!?」

晶子は、後方でノンビリと指令を出すタイプではない。

 

「そうなんだよなぁ・・・だから、修理屋手伝ってくれるか!?」

 

「もちろんです!!」

 

それから、ブライアさんに具体的な作戦について説明を受ける・・・

 

「俺が単身で前の車両に乗り込むから、修理屋はエムズを操作して俺をその車両まで運んでくれ!その間、17式から攻撃されると思うので迎撃しながらになってしまうが・・・」

なかなか、ヘビーな内容ではあるが、俺も技術者としてエムズのような兵器関係にも通じており、何度も試験運転もした事がある。

 

「大丈夫です!私がいるのでお任せ下さい。」

そして、今はアリスがこの機体のコアコンピュータとして機能させている。

  

「ああっ、そうだな!何せ今はお前がいてくれるもんな!」

 

「はい、マスターのようなポンコツパイロットでも、エース級の結果を出させる・・・それが私、アリスの役目です。」

 

「おまっ、ポンコツ言うな!!」

 

アリスがこの機体を制御して、しばらく時間も経っている。演算処理と機体動作とのバランスもかなり慣れてきたようだし、ここはアリスの力を頼るしかない。

 

「アリス!しっかり俺を導いてくれ!そして、俺について来てくれ!」

 

「はい!地獄でも何処へでも付いていきます!」

 

「おまっ、縁起でもない事言うな!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ・・・それから、何処でアタックをかけるかについて検討し、ここの湖に決まった。理由は民家や建物もなく、17式から迎撃されても他に被害が及ぶ心配が少ない事と、17式が持つ主砲・・・リバイヤキャノンの死角から接近出来るからだ。

 

暴走する列車を飛び越えて、少しでも17式からのレーダー捕捉を回避する為、湖の真ん中に着水した。ここで、暴走列車を待ち構える作戦だ。

 

・・・コクピットから機体の上部甲板に出て、装備品をチェックするブライアさん。いくら擬態化しているとはいえ、単身で砲弾の中を掻い潜り車両に乗り込もうと言うのだが、彼の体とエムズの機体とを細いワイヤーで繋ぐ。

 

「何かあった時は、全力でこのワイヤーを引っ張って、引き摺ってでもブライアさんを回収しますので。」

 

「ああ!任せる!」

 

・・・ 嵐の前の静けさ・・・と言うべきだろうか?

 

レールライン周辺の道路封鎖や周辺住民の避難は迅速に行われているようで、辺りは騒音など聞こえず静まり返っている。

 

「対象、間も無く接近してきます。」

アリスの報告で、俺もブライアさんも身構える。

 

・・・ガタンゴトンと、遠くの方から列車の走る音がレールを伝って聞こえてくる。

 

「きます!」

 

・・・前を走る付随車両、後ろから押す動力車両の第17式機動装甲列車が近付いてきた。

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章13〜

「これは・・・!?」

 

・・・ モニターに映し出された映像に驚くブライアさん・・・

 

「前に一度見た事があったんだけどな・・・これが修理屋が見ている景色なのか?」

 

「そうです。灰色の空に、建て物、これがキャンセラーの見る景色です。でも、普段は拡張世界を映す眼鏡を掛けてますから!」

 

人は生まれた時に脳内にナノチップを埋め込まれる・・・物心付いた頃から拡張世界の中で生きているからこそ、この世界の真の姿を見るとショックを受ける事が多い。

 

「アリス!対象のみキャンセル映像を映し、後は拡張世界に戻してくれ。」

 

「了解です、マスター。」

 

・・・再び、モニター映像が切り替わり、白黒の世界からカラフルな世界に戻る。

 

「すまんな、修理屋!この映像は本庁、支局の人間にはなかなか見せたくない映像なもんでな!」

ブライアさんが言う通り、この世界の真の姿と拡張世界とを見比べてばかりいると、その両方のギャップに精神が追い付けなくなり、脳に障害を起こす人間もいる。

 

「いえいえ、理解しています。」

 

拡張された世界の中で当たり前に生きてきた人間にとって、この世界の真の姿は刺激的過ぎるのだ。

 

「マスター、対象データを解析しました。対象は第17式機動装甲列車後継機モデルです。」

 

・・・アリスが対象解析データをモニター上に表示してくれる。16連ミサイルポッド、リバイヤキャノン、360°回転式バルカンを4機搭載した走る要塞であり、誘導弾等、かなりカスタマイズされている様子だ。

 

「このデータを本庁、支局の各部に転送してもらえるか、嬢ちゃん!?」

 

「はい、ブライア様!それと、先程から何度も通信が入ってますがいかがいたしましょうか?」

 

もちろん、通信元はオーグセキュリティE-03部の課長笠原晶子からだと推測される。流石にもう通信エラーは言い訳には出来ないようだ。

 

こちらブライア!エムズ一号機にて対象付近に展開中!」

少し、引きつった声で通信に応答する・・・

 

『 ブ ラ イ ア ッ ! ! 』

開口一番、雷が落ちた。声からわかる晶子の鬼の形相・・・もう、念仏を唱えるしかない。

 

「すまない課長・・・現場に一番乗りしてしまいました。」

 

・・・その後も、ブライアさんは晶子から色々雷を落とされていたが、流石年の功・・・上手く話を流しながら情報解析の重要性を訴えている。

 

『それと隣にいるんでしょ悟!』

 

怒りの矛先がこちらに向けられた。もはや、逃げ場はないようだ。

 

「いや、こっちにはいません。」

 

『 サ ト ル !』

 

「嘘ですッ!います。めちゃくちゃここにいます。」

・・・晶子は冷静で高圧的、一番シャレにならないタイプの人間だ。

 

『さっきの対象解析・・・あなたがやったのね!』

 

 「ああっ!捜査官の危険度を少しでも下げようと思ってやった事だ。後悔はしていない。」

 

『そう・・・悟は昔からいつもそうだね!』

怒りが鎮まり、冷静になった晶子の反応に、俺は少し驚いた。 

 

『じゃあ、この件が片付いたら、しっかり悟には償いをしてもらうわ!月ヶ瀬悟容疑者さん!』

 

「あっ・・・あの〜。その逮捕状の件の事把握していらっしゃるのですね・・・。マジでやるつもりなの?」

 

『もちろん!』

 

なんの躊躇いもない真っ直ぐな返事が返ってきる。晶子は俺とアリス、そしてブライアさんがどうやってオーグセキュリティEを抜け出してきたのか、その経緯も行動もしっかりとわかっているようだった。月ヶ瀬悟・・・俺の運命も尽きる。

 

「ははっ!修理屋、そう気を落とすな!俺がなんとかしてやる!」

 

「ブライアさん!」

流石頼りになるおやっさんだ。

 

『ブライア!ちなみにお前もお咎めなしで済むと思うな!』

 

「おいおい、つれないなぁ〜課長は・・・で、これから課長達はどう展開するつもりですか?」

 

『今、ブライア達がいる地点から80キロ先・・・07-16エリア09・・この谷間の地点で対象を迎え撃つ為、現在本庁支局と連携して陣を敷いているの!』 

 モニターに映してその地点を表示してくれる。レールライン上現在地からその地点までは分岐点はなく、周りに民家や建物もない、迎え撃つには最適なポイントだ。

 

 「だけど、課長!相手は17式ですよ!周りが火の海になります。」

 

『ああ、わかっている。だから、今増援も要請しているし、私達もその地点へ向かっている。ブライアは対象の様子を伺いながら並走するように!対象が急停止したり、別行動をとった場合は報告するように!』

第17式機動装甲列車は重装備で火力も高く、防衛能力に長けた装甲列車である。オーグセキュリティEの戦力だけで、17式と対戦すればかなり痛手を飼うのは目に見えている。

 

「ブライアさん、晶子、あいつは17式を迎撃するつもりですが、正面から挑んで無傷ですむような相手じゃないです!」

 

「ああ、そうだな。このエムズと俺達で出来ることはやってみよう!」

 

「はい!手伝わせて下さい!」

 

晶子は暴走列車の状況確認だけで、対象には手を出すなと言ったが、オーグセキュリティで用意できる戦力の中、一番高火力なのはこのエムズだ。

この対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)が今動かずして、いつ動く!!

まだ、あの暴走する列車が、どのような目的を持って、何のために走るかも分かっていない状況だ。解析で前方車両も後方17式も無人であるとは分かったが、だからと言って

戦闘に突入するのは最終的な方法でいいはずだ。

 

「ブライアさん、どう攻略します!?」

 

「なんで、17式はわざわざステルス化して、前の車両を押しながら進むと思う?わざわざカモフラージュして走ってると思う?」

 

「17式が暴走して、どこかで付随車両を引っ掛けてそのまま押して走ってるのかと思いましたが、ちゃんと連結されてますよね!」

映像解析では第17式機動装甲列車と前の付随車両とは、きっちりと連結されている状態が伺える・・・という事は、意図的にあの連結状態で暴走していると思われる。

 

「前の車両・・・気にならないか?」

 

「なります!」

 

「ちょっと、俺・・・前の車両に乗り込んでくるよ!」

 

「なっ!?」

 

「修理屋、その間、運転・・・お願い出来るか?」

 

・・・ 俺はブライアさんの突然の提案に驚く ・・・

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章12〜

「対象まで距離2700m・・・周辺にはオーグセキュリティ支局の警備車両が追走中です。」

 

アリスの報告通り、オーグセキュリティ支局の車が、暴走する列車とかなり距離を取りながら追跡している。対象に近づき過ぎると、見えない攻撃に晒されるので当然距離を取らざるおえない状況だ。

 

「まもなく、着陸します。着地コードをナビゲートします。」

 

「了解!」

 

モニターに映る誘導ラインに沿って、ブースターを効かせながらエムズは問題なく着地した。

オーグセキュリティEから現場までの何百キロの距離をジャンプ移動でやってきたのだ。これは、セキュリティEからの派遣組の中では一番乗りで現場に到着した事になる。

 

「アリス、対象まで距離は・・・?」

 

「1800mです。」

 

「よし、じゃあ始めますか!?ブライアさん、コクピットのハッチを開けてもらえますか?」

 

「ああ、了解!どうする気だ!?」

 

「対象を目視します!」

 

暴走する列車・・・その真の対象というのは、今モニターに映っている付随車両ではなく、その後ろの車両・・・拡張世界(オーグリアリティ)を使ったステルスコーティングによって透明化された装甲列車の方である。

俺は、眼鏡を外すと拡張世界は目に写り込まず、本当の世界を見る事が出来る。だから、透明化された車両の本当の姿も目視する事が出来るのだ。

 

「マスター、ヘッドギアを!」

 

俺はアリスから小型ヘッドギアを受け取り、エムズのコクピットから身を乗り出して外へ出た・・・そして、ヘッドギアを装着して眼鏡を外す。眼下には真っ白の世界が広がる・・・これが、この世界の真の姿だ。

 

「エムズをレールラインに乗せて追走してらえますか?」

 

「了解!」

 

エムズは着地してからは公道を走っていたが、ジャンプしてレールライン上(線路上)に移動した。障害物のない真後ろから対象を捕捉する為だ。

 

「対象にロックオンされない程度に距離を詰めてもらえますか?」

 

「ああ、わかった!ヤバくなったら教えてくれよ、嬢ちゃん!?」

 

「了解です!」

 

どんどんと対象に近づくにつれて、その全容が明確に捕捉出来てきた。

付随車両の後ろを走るのは、かなりカスタマイズされているようだか、武器装甲から第17式機動装甲列車だと思われる。

 

第17式機動装甲列車・・・『オーグアーミー』と呼ばれるこの世界の軍隊機関用の兵器として開発された兵器だ。レールライン上の移動運搬を目的とし、防衛能力に優れた重兵器だ。

 

「後退する!」

 

と、ブライアさんは、いきなりエムズを急停止させた・・・どうやら対象に近付き過ぎたようだ。俺はコクピット内に転がるように戻り、急いでコクピットのハッチも閉じた。

 

「警戒レベルイエロー信号が出ました。距離は800mです。」

 

「そうか、データは取れたか?」

 

「はい、問題ありません!」

 

俺がコクピットから身を乗り出して、対象を目視する事は大きな意味を持つ・・・

 

「ブライアさん、今からこのモニターにあの透明列車の正体、御尊顔を映し出します!」

 

「そんな事が出来るのか!?」

 

「はい!俺が目視で対象を見た際の脳波情報をこのヘッドギアを通してアリスに伝達させました!」

 

「そして、私がエムズを通して対象に向けて超音波を出し、その反射の具合から対象の物体情報を演算しました!」

 

俺の目視情報とアリスの超音波演算を合わせる事で、拡張世界をキャンセルさせた真の現実世界を映し出す事が出来る・・・この世界人間のほとんどと機械やアンドロイドにはナノチップが埋め込まれており、デフォルトの状態で拡張世界を見る(見せられる)事になっているが、アリスが、俺が眼鏡を外した時に見える景色をどうしても見たいというので考え出した拡張世界キャンセルシステムだ。

 

「それでは、切り替えます!」

 

・・・・・・・・・

 

モニターが一旦真っ黒になって、次に映ったその景色は、俺がさっきまで眼鏡を外して見ていた灰色の真の世界だ。その灰色の中をレールラインが続く・・・前方に見えるのは、完全武装された第17式機動装甲列車だった。

 

 

 

WEB小説 拡張された世界 〜第一章11〜

・・・・・・・・・・・・・

 

 

「うぉぉぉぉぉーーーーーッッ!!」

対犯罪者用戦闘重兵器車両EMZ-03(エムズ)のコクピット内・・・

 

俺とブライアさんは絶叫していた・・・

 

 

・・・・少し前のこと・・・・

 

 

「大ジャンプって、現場までエムズでジャンプするってことか?」

 

「そう言う事です。こいつは基本陸上移動用ですが、高出力ジャンプが可能な機体です。」

 

「どうやって・・・その高出力ジャンプをするんだ?」

 

「まず先に二足歩行モードに切り替えて下さい。後は空に向かってラナウェイだけです!」

 

エムズの基本形態は4脚走行だが、上体を前屈みの姿勢にし、後ろ二本の脚を折り畳むと二足歩行モードに切り替わる。

その時、折り畳んだ後脚の折り目部分には噴射口が剥き出しとなり、ブースター機能として使用出来る。

二足歩行モードの目的は、ブースター推力による、無重力空間下での行動・移動だった。つまり、エムズは地上用だけでなく、宇宙空間や水中内での使用も実現させた汎用ロボットなのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・


「うぉぉぉぉぉーーーーーッッ!!」

空に向けて全開でブースターを稼動させると、エムズの機体は轟音と共に浮き上がったと思った・・・その瞬間、一気にGが掛かかり、空に向かって突き進む・・・まるでロケットを打ち上げるような感じだ。

 

「ずっと、このままでいいのか!?」

 

「はい、そのままでお願いします!」

ペダルを全開に踏み込むブライアさんが確認を求めてきたが、今はひたすら空へ駈け上がる他ない。

高度がどんどん上昇していく・・・と共にブースターのヒートゲージもどんどん上昇している。

 

「おい、そろそろブースターがヤバイんじゃないのか?」

 

「大丈夫です。そのまま踏み続けて下さい!」

「マスター、ヒートゲージが93%です。」

 

「おい、このままじゃ、オーバーヒートするんだが!」

 

「大丈夫です!大丈夫なはずです・・・!」

 

・・・さっき見たこのエムズの取説的には大丈夫なはずだ。

 

「ヒートゲージ98%・・・99%・・・!!」

 

・・・ そして ・・・

 

ガチャンッッ!!

 

モニターに赤く警告されていたヒートゲージが青くなり、ゲージも一気に下がる・・・オーバーヒート状態となった。

 

「うわぁぁぁーーーッッ!」

機体の上昇もストップし、バランスが崩れる・・・そのまま降下してしまいそうかとなった瞬間・・・

 

 ガチャンッッ!!

 

再び機体の一部が切り替るような音が鳴るとともに、ブースター噴射口から

高出力の燃焼エネルギーが発せられる。

 

 

セカンドブースター!!??」

 

 

モニターに点滅するセカンドの文字・・・エムズは通常ブースターがオーバーヒートを起こすと、セカンドブースターに切り替えられる構造になっていた。

 

「こんな機能、マニュアルにも何処にも書かれていなかったぞ!」

 

「そうです!俺もさっきシステムを構築している段階で見つけたんです。元々、この機能が使えないようになってましたがシステムをいじって使えるようにしてみました。」

 

エムズの開発者は何故このような、機能を搭載させているのにそれを使えなくしたのだろうか?

おそらくは、この世界を統治管理するコンピュータ『リアース』は、人間達に武器を持たせる際、制限を設ける・・・限られたスペックの武器のみ使用できる事を許可しているので、このエムズの隠されたギミック機能は、開発者のリアースに対する細やかな反抗のようなものだろうか。

 

「とにかく、セカンドブースターでさらに天に昇りますよ!」

 

「ああっ!わかったよ、修理屋!」

 

 

・・・エムズはさらに上昇する・・・

 

 

「マスター、予定高度の9000mに達しました。」

「ブライアさん、出力を30%に調整して下さい。」

 

「了解!」

 

高度9000mの世界・・・エムズの真下には一面雲がどこまでも広がっている。この雲は今なお地球を覆っている、先の世界大戦の後遺症のような存在だ・・・という事は、この高度9000m上空では、拡張世界(オーグリアリティ)はどうなっているのだろうか疑問がわく・・・エムズのモニタ越しに見る景色は、真の地球の姿を映しているようにも思うが、俺はこの上空でコクピットハッチを開けて、外の景色を見てみたいが、今はそんな場合ではない・・・

 

「これより、アリスが目的地までナビゲートしますので、それに従って下さい!大降下作戦です!」

 

「了解!頼むぜ、嬢ちゃん!!」

 

「はい、ブライア様!これより、方角調整は自動モードに切り替えますので、出力調整はモニタ−に従って下さい。」

 

「了解!」

 

高度9000mの登山は終わり、いよいよ目的地(暴走列車)までの下山が始まる。

 

・・・ ブォォォォォーーーーーーーッッッ!!! ・・・

 

もの凄い風圧と重力を受け止めながら、降下するエムズ・・・時折、ブースターを吹かせて着地地点への調整を計る・・・少しでも出力調整を見誤れば機体バランスを崩してクルクル回転をはじめてしまいそうだが、流石歴戦のパイロットであるブライアさんは、安定した操縦を続けていた。

 

 

「高度1000mをきりました・・・対象まで間もなくです。左前方に目視で確認が出来ます。」

 

 

アリスの言葉通り、遥か前方に移動する物体が見えてきた。レールライン上を暴走する列車だ。エムズのモニタ−越しだと前の付随車両しか見えない・・・その後ろに、ステルスコーティングされたレール式戦闘装甲車が前の車両を押しながら走っていると推測される。

 

俺は緊張しているのか、少し体が震えていた・・・いやっ、これは武者震いだ。